●コンクールレポート●
「第16回全日本アマチュアギターコンクール」

主催:全日本ギター協会
レポート:審査員 坪川真理子


 2015年8月29日(土)、三鷹市文化センター・風のホールにて、第16回全日本アマチュアギターコンクールが開催されました。
以下は、審査員の1人、坪川真理子の個人的レポートである事をご了承下さい。

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 今年の応募者総数は94名。第1次予選(テープ審査/「禁じられた遊び」〜前半のみ)は全員が合格となり、第2次予選の録音を提出した93名の中から49名が合格。最終予選は体調不良などで3人が棄権して46名が参加、そのうち10名が本選に選ばれた。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田忠、佐藤弘和(作曲家・ギタリスト)、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト宮下祥子(ギタリスト)の7名。

<最終予選
課題曲:ワルツ・ニ長調(タレガ)/現代ギター社版「発表用ギター名曲集」または「ターレガギター曲集」指定(リピート省略)。

 まず、6月初めに行われたテープの第2次予選は、「メヌエット・ハ長調Op.25(ソル)」で「繰り返しもD.Cもなし」だったが、残念ながら失格となった人が数名いた。そのうち、Trio(中間部)を別の曲と勘違いしたようで、Trio前までしか演奏していなかった人がいたのは想定外だったが、「ターレガギター曲集」の書き方だと分かりにくかったかもしれない。これについては、指定版を選ぶ上で、審査員側にも反省点が残った。また、再生不可能のMDが1枚あったのも残念だった(デッキとポータブルの両方で試したが聴けなかった)。MDもCDもデッキによって再生できないことがあるので、要注意だ。ケースもなしで封筒に入れられてくることも少なくないので、きちんと梱包するべきだろう。毎年、繰り返しのミスや再生不可能で失格者が出るのはこちらにとっても残念なのだ。全体的には、スラーを正確に発音すること、適正なテンポで弾くことなどが大きな審査ポイントになったと思う。丁寧だがメヌエットには遅過ぎる演奏も少なくなかった。


 最終予選課題曲の「ワルツ・ニ長調」は、緊張からか、冒頭部分のメロディーをきちんと出せていない人が多かった。リピートがないため波に乗れるのがB部からになってしまい、挽回できなかった実力者たちもいた。多少速くても遅くても良いのだが、軽やかな3拍子の伴奏に乗ってメロディーを歌う・・・というのは予想以上に難しかったようだ。また、フェルマータの雑な扱いや、ブレスを意識していない演奏も多く見受けられた。その中で、多少の傷はあってもしっかりとメロディーを聴かせた人が合格になったと思う。
 
 採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、今回は26点以上でちょうど10名が合格となった。ちなみに、25点は佐々木宣博、柴田光雄、24点が相原規明、櫛田康晴で、もう一歩だった(以上50音順)。

<本選>
 自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)

 本選出場者発表前に昨年度優勝者の須藤尚之がゲスト演奏し、インタビューなども行われた。以下、10名のレポートを演奏順に記す。「 」は他の審査員のコメントをまとめた。

 ●藤崎哲郎(神奈川):ソナタ第1番(アルベルト)
 クリアな音でメロディーを歌う。低音の響きがもう一歩だったのが惜しい。柔らかく落ち着いた演奏。「アピール度が少し足りない」という声が少なくなかったように、2位を付けた審査員が多かった。「よく歌っているが、拍子感よりも歌が優先されている。」<第2位>

 ●渡部信一(神奈川):BWV1006〜プレリュード(バッハ
 緊張のためか、度忘れや弾き直しが多かったのが残念だった。右手が浮いてしまい、コントロールできていない。声部のバランスは良く、十分な技術力がありそうなので、人前で弾き慣れる機会を作り、メンタル面を鍛えるのが課題になると思う。「(暗譜の難しい)バッハでなければ・・・」という声が聞かれた。

 ●千葉麻子(神奈川):秋のソナチネ〜第2楽章(佐藤弘和)
 音楽的な演奏で、佐藤作品のイメージをよくつかんでいる。最終予選では見えなかった主張や力強さが見られるが、fで弦を持ち上げてしまい音が汚くなるのが惜しい。右足にギターを乗せ、左足を閉じるという演奏スタイルだが、まるで自作曲を弾いているかのような雰囲気だった。<第3位>

 ●ティムソン・ジョウナス(埼玉):イギリス組曲第1、3楽章(デュアルテ)
 昨年度本選出場。細めだが美しい音で、各声部の弾き分けがよくできている。和音の色合いに少し変化が欲しい。3楽章は力み過ぎて、少し雑になってしまった。両楽章の冒頭で(3楽章は2回も)弾き直してしまったが、それさえなければ上位に食い込んでいただろう。「弾き直しは、弾き始める前の呼吸が悪い。」「緩急のアゴーギクが自然で上手い、メリハリのある演奏。」<特別賞>

 ●小林丈記(タケキ)(千葉):郷愁のショーロ(バリオス)
 太い音で朗々と歌う。A部は良いのだが、リズミカルなB部はもう少しコントラストが欲しかった。また、難易度の高い部分でミスが複数出てしまったのが惜しい。珍しい版だったが、B部後半の和音は明らかに音ミス(誤植?)があって気になった。「右手のタッチがいつも同じなので、音色の変化が欲しい。」

 ●杉本みどり(神奈川):椿姫の主題による幻想曲(アルカス)
 緊張は感じられるが、落ち着いた丁寧な演奏。トレモロも美しい。メロディーをきれいに歌っているが、少し線が細いのが残念だった。「決めどころが少し甘い。」「自然な拍子感で流れているが、もっと主張してもらいたい。」

 ●山口直哉(千葉):前奏曲第5番(ヴィラ=ロボス)、アルハンブラの思い出(タレガ)
 柔らかい音。前奏曲は丁寧な演奏だが、中間部とのコントラストが少ない。メロディーを追うだけでなく、ヴィラ=ロボスならではの不協和音を楽しめると良いだろう。「表現がおとなしい。緩急が足りない。」アルハンブラは更に強弱の幅が広がると良いが、完成度の高い美しい演奏だった。
 
 ●増田誠一郎(千葉):魔笛の主題による変奏曲(ソル)
 予選2位通過。細めだがクリアな音。序奏から思い入れが感じられる演奏。特に最終変奏は決して完璧ではなかったが、ミスに動じず音楽の流れに乗れたのが良かった。「各変奏を特徴的に弾けている。」「全体に自然で音色の変化もあり好感が持てる。」<第1位>

 ●箭田(ヤダ)昌美(東京):絆(ジャン・マリー・レーモン)
 予選1位通過。よく通る美音で、バランスも良いのだが、ダイナミックレンジが狭い。曲自体が変化の少ないタイプではあるが、もう少し音楽の波が欲しい。トレモロもきれいで技術的な実力は十分なので、音色の変化や強弱など、音楽的工夫を追求されたい。<次席>

 ●森本晃吏(神奈川):BWV998〜プレリュード、アレグロ(バッハ)
 昨年度本選出場。今回の本選では最年少の26歳。柔かい音だが、高音に対し低音が物足りない。アレグロはよく弾いていたが度忘れがあり、完全に止まってしまったのが惜しい。「きれいな音色で音楽が自然に流れている。」渡部氏同様、「違う曲なら・・・」という声が多かった。


<総評>
 今回は未だかつてない接戦で、増田さんと藤崎さんが24点で同点、その1点差の23点でまた千葉さんと箭田さんが同点。7人の審査員で決選投票をし、上記のような順位に決まった。増田さんと藤崎さんはそれでも4:3票という接戦で、更には1位の増田さんと次席の箭田さんまでは1点しか差がなかったことになる。ちなみに、1位を付けたのは、増田さんに3人、箭田さんに2人、千葉さんと小林さんに1人ずつ。(本選の採点は6点満点で、1位〜6位にそれぞれ6〜1点を付けて合計する方法。7位以下は0点。)
 5位以下の順位は付けておらず、特別賞=5位という訳ではなく、印象に残った人という観点で選んでいるのだが、今回は点数的にも5位だったジョウナスさんに決まった。実のところ5位も杉本さんと同点だったのだが、特別賞は、冒頭の弾き直しさえなければ上位に入っていただろう、ということでジョウナスさんに贈られた。
 
 毎年日本全国から参加して頂いているが、今回の本選会は「全員関東在住」という、これまた珍しいパターンになった。年代的には20代1人、30代2人、50代3人、60代4人と、平均年齢は少し高め。若者に厳しい傾向がある、というので敬遠されたのだろうか。技術的にダントツの人がいなかったため、前代未聞の接戦となり、音楽に点を付けることの難しさを改めて感じた本選会だった。審査員が1人違えば全く違う結果になっていたかもしれないし、私自身、コンクールが違えばまた違う基準で審査していたと思う。コンクールには運も必要だし、逆に言えばコンクールの結果が全てではない、ということなのだ。
 
 最後に、常連さんの数名が申し込み時に返信用封筒を入れ忘れていた経緯があったことをご報告しておきたい。また、予選参加者か応援の方か分からないが、録音禁止の本選で、客席で録音していて注意されたそうだ。どちらも、本当ならそれでレッドカード=退場(失格)になってもおかしくない。返信用封筒に関しては、手続きに慣れて雑になっただけで悪気はないと思うが、90名を超える参加者に審査の合否や(不合格者には)コメントを送る作業の大変さを想像できるだろうか。参加者や聴衆の方全員の良識でコンクールが成り立っていることを、改めてご理解頂きたいと思う。

 来年は、毎年同じ第1次予選(テープ審査)課題曲が「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ、繰り返し省略(作者不詳)」。第2次予選(テープ審査)が「プレリュード第7番(ショパン〜タレガ編)」。最終予選(公開審査)は「練習曲Op.31-10 カンタービレ」(ソル)(いずれも現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用)となっている。来年も、また多くの方々の参加や応援を楽しみにしている。

第16回全日本アマチュアギターコンクール結果
第1位 増田誠一郎(千葉県)
第2位 藤崎哲郎(神奈川県)
第3位 千葉麻子(神奈川県)
次席  箭田昌美(東京都)
特別賞 ティムソン ジョウナス(埼玉県)


    
   
 第1位:増田誠一郎(千葉)  第2位:藤﨑哲郎(神奈川)_1703 第3位:千葉麻子(神奈川)  特別賞:ティムソン・ジョウナス(埼玉)
       
次席:箭田昌美(東京)  入選:山口直哉(千葉)  入選:小林丈記(千葉)  入選:森本晃吏(神奈川)
       
 入選:杉本みどり(神奈川)  入選:渡部信一(神奈川) 講評:ゲスト審査員 宮下祥子 ゲスト演奏:第15回全日本アマチュアギターコンクール優勝者 須藤尚之 
      
開会挨拶:全日本ギター協会会長 志田英利子  総評:審査員代表 石田 忠   入賞者〔前列〕、入選者〔中列〕および審査員〔後列〕_1800 
      
司会:伊藤 成  賞品の一部  表彰式