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●コンクールレポート●
「第2回全日本アマチュアギターコンクール」
主催:全日本アマチュアギターコンクール実行委員会

2001年8月19日、毎日新聞社、三鷹市芸術文化振興財団ならびにギター関係13団体の後援・協賛により東京・三鷹の三鷹市芸術文化センターにおいて第2回全日本アマチュアギターコンクールが開催された。
様々なギターコンクールが開催されるなかで「アマチュア」という語を冠に添えるものは珍しい。このコンクールは、「アマチュアギタリストの支援のために」、そして「ギター音楽の普及と発展を図り、さらに親睦交流を目的」として開催されている。
ここでいう「アマチュア」という言葉は「プロフェッショナル」という語句の対義語である。だが、「玄人」に対する「素人」という意味でアマチュアという用語が使われている訳ではない。あくまで単純に、コンクールの時点で出場者がギター演奏を主要な所得収入源としていないというだけのことである。
このコンクールで対象としているのは、「趣味としてギターを楽しんでいる社会人」である。だからこそ、「過去に当コンクール1位及び他のコンクール1~3位に入賞していない20歳以上の社会人(学生不可)」を参加資格においた。趣味としてのギター音楽を出場者がさらに深く掘り下げて興じることができるその1つのきっかけになればいい、これが当コンクールの目的でもある。
このような企画であるから、ともすれば、他のコンクールと比較したとき出場者の平均的なレベルが低くなる、という確率は高いかもしれない。しかしながら結論を先んじておくと、今回も前回同様、ハイレベルな争いが繰り広げられた。プロのギタリストの目覚しい活躍があればこそ、アマチュアギタリストも啓発され練習に励むことになるのであろう。したがって当コンクールのレベルの高さはプロとして第一線で活躍する多くのギタリストによる努力の恩恵を受けているものということができる。
コンクールは2度のテープ審査、そして当日の最終予選についで本選、というプロセスですすめられた。第1次テープ審査課題曲は「禁じられた遊び(愛のロマンス)/作曲者不詳」。第2次テープ審査課題曲は「魔笛の主題による変奏曲/ソル」(ただし主題と第1変奏のみ)。全曲ではないとはいえ難曲の“魔笛”が課されたにもかかわらず、61名の応募者があり、テープ審査を通過した50名のうち、45名が出場することとなった。おりしも台風が近づくなか(石垣島から出場するはずの出場者が出場できない、というトラブルにも直面せざるをえなかった)、三鷹市芸術文化センター<風のホール>では熱演の嵐が吹き荒れることとなる。
最終予選課題曲は「メヌエット/ラモー」。難曲ではないものの、やはり楽譜の伝えんとする曲想をイメージして本番で演奏するということは決して容易なことではない。先にも述べたように、出場者はギター演奏を本業としていない。舞台袖で順番待ちをする出場者のなかには、人前で演奏することそのもののプレッシャーに負けそうになり、指(ともすれば体全体)が硬直してしまっている方もいた。しかし、やはりコンクールである。努力と研鑚の日々が目に浮かぶような素晴らしい演奏が次々と披露された。
審査員は次のとおり(敬称略、50音順)。江間常夫(ギタリスト)、尾尻雅弘(ギタリスト)、越智光輝(クラリネット奏者)、北林康彦(作曲家)、志田英利子(ギタリスト)、荘村清志(ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)。
各審査員とも、1.メロディー、2.和声、3.リズム、4.音色、5.表現力、6.ステージマナー、7.調弦、8.個性、という8つの項目について審査する。そしてこの8項目の審査票は出場者全員に手渡される(アマチュアギタリストにとってこの審査票が貴重な糧となるであろうことは想像に難くない)。
最終予選の審査中、ゲスト演奏として、昨年度優勝者の渡辺隆哉が「フーガBWV1000/J.S.バッハ」と「椿姫の主題による幻想曲/アルカス」を披露した。そのあと、第32回クラシカル・ギターコンクールの第1位の座に輝いた河野智美がゲストに加わり、デュオで「タンゴ組曲/ピアソラ」を奏でた。
渡辺&河野デュオの演奏が始まるや否や司会者が「あとどれくらいの時間で審査終わりますかね」とたずねてきた。筆者は審査室に飛び走り状況をうかがった。「え?もうデュオが始まっているのですか?」と驚く審査員がほとんどであった。45人のうち何人を本選に通過させるか、審議が難航したことの現われといえよう。デュオが終わると本選出場者を発表しなければならない、という事情を熟知したある審査員から「(渡辺&河野デュオに)できるだけゆっくり弾いて欲しい」というジョークまで飛び出したほどである。
幸いにも「タンゴ組曲」の熱演がもうすぐ終わる、というときに審査結果が出た(「タンゴ組曲」のテンポも決してゆっくりすぎることはなかった)。11名が本選に出場、次点者なし、という結果であった。発表とともに本選出場の抽選が行われる。
本選出場者11名の氏名(ならびに都道府県)と演奏した自由曲を、演奏順に紹介しておく。
藤川優(大阪)「アストリアス/アルベニス」、佐々木信暢(神奈川)「アンダンテ(無伴奏バイオリンソナタ第2番)/J.S.バッハ」、「前奏曲(無伴奏チェロ組曲第1番)/J.S.バッハ」、居川英敏(兵庫)「ファンタジー/ヴァイス」、「前奏曲第5番/ヴィラ=ロボス」、濱野義信(埼玉)「サラバンド(リュート組曲第2番)/J.S.バッハ」、有賀勝巳(長野)「別れOp.21/ソル」、水野浩(大阪)「プレリュード、ダンサ・ポンポーサ/タンスマン」、小日向孝之(宮城)「ブーレ、ドゥーブル(無伴奏バイオリンパルティータ第1番)/J.S.バッハ」、清水孝彦(長野)「アラビア風奇想曲/タレルガ」、森本素子(長野)「ハンガリー幻想曲/メルツ」、桐山竜之介(長野)「ムッシュアルメイン/バッチェラー」、「ワルツNo.4/バリオス」、中子祐二(三重)「大聖堂/バリオス」。
本選出場者の演奏終了後、審査員が別室で協議するかたわら、会場では司会者と本選出場者のトークショーならびに本選出場者の渡辺&河野デュオへの質問コーナーがとりおこなわれた。このような試みもまた当コンクールの特色ともいえる。出場者の1人が演奏に対する心構えに関する質問をした際に、河野智美は「私は演技をするようにギターを演奏します」という含蓄に富む言葉を残した。
審査の結果、優勝に輝いたのは清水孝彦。オーソドックスなレパートリーである「アラビア風奇想曲」を丁寧に演奏した点が高く評価された(記念品として松井邦義製作が授与された)。第2位に中子祐二、第3位に森本素子、そして入賞者として有賀勝巳、桐山竜之介および小日向孝之の3名が選出された。弾き直しをしたことが悔やまれるものの美しい演奏を披露した水野浩には特別賞が与えられることになった。最年長者に与えられるVerde賞は藤川優が選ばれた。
舞台スタッフとして暴露してしまうが、このとき、舞台袖で用意していた「楯」が不足するというハプニングがあった。幸いにも予備の楯があったので急遽それを取り出すことに。スタッフとしてはいわゆる「冷や汗モノ」であったが、審議を難航させるほどのハイレベルな演奏が続いていたことの傍証ともいえる。嬉しい誤算であったといえよう。
審査員を代表して、北林康彦から審査の講評が伝えられた。調弦に対する注意力、弾き直しをせずに歌い続ける歌心の大切さ、消音(特に低音弦)に対する心配り、テンポの遵守(テクニックの都合で部分的にテンポを変えるようなことがあってはならない)、和声の重視、などギター演奏向上のためのポイントが明瞭な言葉で指摘された。
来年もギターに最適な残響をもつ三鷹市芸術文化センター風のホールで8月18日(日)に開催されることが決まっている。
課題曲は下記の通り。
第1次予選=テープ審査:愛のロマンス(禁じられた遊び)/作曲者不詳
第2次予選=テープ審査:ワルツOp.32-2/ソル
最終予選=公開審査:夢(マズルカ)/タルレガ
本選=公開審査:5分以上8分以内の自由曲、曲数任意
全日本アマチュアギターコンクールは昨年についで今年で二度目である。軌道にのりはじめたとはいえ、試行錯誤の域を脱しているとは言いがたい。
来年度以降も多数の応募者によるチャレンジを期待したい。このコンクールが今後どのように成長していくのかはアマチュアギタリストの皆さんの努力に大きく委ねられているといってよい。そのような当コンクールを後援・協賛して下さる関係諸団体の方々にはあらためて謝意を表わしたい。来年度以降のさらなる発展を祈りつつ、筆をおく。(横山和輝)

■ 本選出場者10名
前列右より 第3位:森本素子、第1位:清水孝彦、第2位:中子祐二

中列左 Verde賞:藤川優


■ 審査員
江間常夫(ギタリスト)、尾尻雅弘(ギタリスト)、越智光輝(クラリネット奏者)、北林康彦(作曲家)、志田英利子(ギタリスト)、荘村清志(ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)



 
■ 表彰式の様子


■ 講評を述べる北林康彦