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●コンクールレポート●
「第10回全日本アマチュアギターコンクール」
主催:全日本ギター協会
レポート:審査員 坪川真理子



2009年8月23日(日)、記念すべき第10回全日本アマチュアギターコンクールが例年どおり三鷹市芸術文化センター風のホールにおいて開催されました。
昨年同様、以下は審査員を務めた坪川真理子氏による個人的レポートである事をご了承ください。

月刊「現代ギター」2009年11月号(No.546) pp.50-52にも一昨年審査員代表を務めた小川和隆氏によるレポートが掲載されていますのであわせてご覧ください。




今回は第10回を記念して、「テープ審査なし・参加申込者全員が舞台で弾ける!」という、かなり思い切った企画だった。87名の申込者のうち3名の棄権があったため、84名による予選となり、本選には10名が選ばれた。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 江間常夫、高田元太郎、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト 荘村清志(ギタリスト)の7名。


■予選

課題曲:「禁じられた遊び~ロマンス」(作者不詳)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定、(リピートなし、ダ・カーポあり)

予選後の合格発表から本選までの時間が少な過ぎた昨年の反省と、例年より大幅に多い予選参加者の数を考慮して、今回は午前10時45分からスタート。遠方からの参加者の都合も配慮され、まずは東京近郊在住者のグループから始まった。
予選課題曲の「禁じられた遊び」はリピートなし、ダ・カーポありで普通に弾けば1分半で終わる計算だが、出入りや調弦に手間取るとか、弾き直しなどがあった場合、限りなく進行が遅れていく。そのため、厳しいようだが今回は「名前を呼ばれてから弾き終わるまで3分」というタイムリミットを設け、弾き終わらなければベルを鳴らして終了(ただし審査には影響なし)ということを告知してあった。結果としては、多少のんびり調弦をした人や、少し遅めのテンポで弾いた人などもいたが、タイムキーパーによると「ぎりぎりの人でも2分50秒だった」とのことで、一人も強制終了を出さずに済んで良かったし、スタッフと参加者の方々の連携プレーには素晴らしいものがあったと思う。また、今年は審査員がコメントを書く時間を縮小するため、「メロディー」「音色」など様々な項目を設け、改善が必要/概ね満足/とても良い(合格値)の3つのどれかにチェックを付けるように工夫してあった。
前置きが長くなったが、予選を審査していて個人的に気になった点を挙げる。まず、毎回そうなのだが、課題曲は版を指定しているので、それ以外の版を使って音が違う場合、「ミス」として減点されてしまう。それでも際立って巧ければ合格になるのだろうが、ボーダーラインの場合は致命的だ。今回多かったのは、6小節3拍目を次の小節と同じAのコードにしているパターンだった。そういう版もあるのだが、コンクールという性格上、既に暗譜しているような曲でも課題曲は指定版をじっくり見なければならないだろう。
個人的には、特にチェックが多くてコメントにも書いたのは、アルペジオ(粒が揃っていない)、ポジション移動(移動が早過ぎて前の小節の終わりの音が出ていない)という二点だった。アルペジオは緊張のため指がうまく動かなかった人も少なくないと思うが、難しい移動を気にするばかりに、前の小節がおろそかになっている人が多いのは気になった。特に後半の18、29、31小節の最後の音などは、早く離すとソのシャープが開放弦のナチュラルになってしまい、Eメジャーには明らかにおかしな響きになるので、注意が必要だ。その他、テンポが遅過ぎるとか、セーハが出ていない、メロディーと伴奏のバランスが悪いなどのチェックもあったが、全般的には適切なテンポでメロディーを歌えていたと思う。

採点は10点満点で審査員7名分の合計を出し、54点以上の10名が本選へ駒を進めた。ボーダーライン付近の人がもっと出るかと思ったが、今回は53点はなし、52点が1名(古木嘉雄)、51点が2名(東條 巖、増田誠一郎)、50点が3名(小此木豊、小野大地、河原 稔/以上50音順)と差が付いたおかげで、スムーズに決まった。


■本選

自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点)

予選審査中のゲスト演奏(昨年度の優勝者・中里一雄)を挟み、本選出場者の発表から本選開始までは余裕のあるスケジュールとなった。
以下、10名のレポートを演奏順に記す。

大久保栄太(埼玉):スペイン風3つの小品よりパッサカリア(ロドリーゴ)
4拍子が少し重たくて推進力に欠けるが、丁寧な演奏。細かいパッセージが曖昧になるのと、音楽的にもう一歩だったのが惜しい。この曲は地味な割に難易度がかなり高いので、あまりコンクール向きではないかもしれないが、本当によく弾いていたと思う。

園城寺哲男(茨城):無伴奏チェロ組曲第6番 BWV1012よりプレリュード(バッハ)
前年度モイスィコス賞(次席)。音が少し割れ気味だが、太く大きくて印象的だった。和声の変化やフレージングの意識が少し足りない。技術的には十分なので、音楽的な部分を更に掘り下げたいところだ。ほとんどの審査員が2位を付けて、圧倒的多数で決まった。
<第2位>

三馬大志(埼玉):プレリュード、フーガ、アレグロ BWV998よりプレリュード、アレグロ(バッハ)
とてもきれいに縦の線(和声)、横の線(対位法)の両方を捉えられている。アレグロは少し重たく、度忘れで抜かしてしまった部分があったのが惜しかった。技術的な傷は多かったが、音楽的な演奏だった。

山内文夫(千葉):大聖堂(バリオス)
第1・2楽章はバランス良くきれいに弾けていたが、第3楽章は緊張のせいか指がまわりきらないところや弾き直しがあった。少しスピードを落とせばもう少し余裕を持って弾けるだろう。

糸坂直志(北海道):ファンタジー(ヴァイス)、セビーリャ(アルベニス)
ヴァイスは惜しいミスもあったが、とてもきれいに響いていて、すべての声部に意識が届いていて良かった。セビーリャは少々焦り気味に感じられ、度忘れもあり、ヴァイスと比べると完成度がもう一歩だった。

柴田光雄(埼玉):テイラー夫人のガリアルド(ロセター)、ファンダンゴ(ロドリーゴ)
調弦が雑で、カポタストを付けてから確認すべきだった。技術は十分あるのに惜しいミスが多かった。ファンダンゴは後半良くなったが、もう少しゆっくりでも良いと思う。

伏見晃司(東京):プレリュード、フーガ、アレグロ BWV998よりフーガ(バッハ)
難曲だが、すべての声部をバランス良く弾けていた。フレージングや和音の響きをもっと意識できれば更に良くなると思う。印象がやや薄かったせいで、第3位の島袋さんと同点でありながらモイスィコス賞(次席)という結果になった。もう一歩で上位入賞を狙えるだろう。
<モイスィコス賞(次席)>

渡辺年広(静岡):アリアと変奏(フレスコバルディ)
調弦が少し甘い。細かいミスや度忘れがあったが、和音の響きを楽しめる美しい演奏だった。ミスの後、少し引っ込んでしまった印象だったのが惜しい。音もきれいで、音楽性を高く評価した審査員もいた。

島袋 操(沖縄):クリスマスの歌(バリオス)、エストレリータ(ポンセ)
予選から、とても味のある演奏で印象に残っていた。会場の拍手も大きかったように思う。どちらも難易度は高くない上、多少のミスはあったが、シンプルな曲を心から歌い上げた演奏が評価された。特別賞は「特に印象に残った人」という基準で、入賞者に限らないのだが、今回はダブル受賞となった。
<第3位および特別賞>

山室敏博(千葉):無詞歌、埴生の宿による主題と変奏(横尾幸弘)
前年度第2位。メロディーを美しく歌って、とても安定した演奏。それほど派手な曲ではないが、気持ちのこもった演奏で最終変奏まで盛り上げ、会場全体がコンサートのように聴き入った様子だった。技術的にも音楽的にもダントツで、7人の審査員中6人が1位を付け、文句なしの優勝となった。
<第1位>


<総評>
今回は難曲が多かったためか、緊張のためか、約半数のファイナリストに度忘れがあった。そんな中で、山室さん、園城寺さんがそれぞれ圧倒的多数で第1位・第2位となり、続く伏見さんと島袋さんは同点だったため、再投票で島袋さんが第3位、伏見さんがモイスィコス賞(次席)に決まった。
全体的に、難し過ぎる曲を選んで損をしている人が多かったように感じた。このコンクールの場合、難易度はそれほど大きく審査に影響しない傾向にあるので、(もちろん同じレベルで弾けば難易度の高い方が評価されるが、難曲で失敗が多いよりは簡単な曲で完成度が高い方が評価される)、勿体ない印象を受けた。それでも、憧れの難曲に挑戦したい!というのがアマコン参加者の方々の熱い想いなのかもしれない。


来年は8月22日(日)、会場は例年どおり三鷹市芸術文化センター風のホールに決定した。課題曲は第1次予選(テープ審査)が「愛のロマンス(禁じられた遊び)」~前半のみ(作者不詳)、第2次予選(テープ審査)がアデリータ(タレガ)、最終予選(公開審査)がエストレリータ(ポンセ)で、いずれも現代ギター社版「発表会用ギター名曲集(第1・2巻)」を使用し、繰り返しは省略、ダ・カーポは付けること。本選(公開審査)は例年どおり、5分以上8分以内の自由曲、曲数任意、となっている。来年はテープ審査が復活するが、課題曲は既にレパートリーにお持ちの方も少なくないと思うので、是非また多くの方々の参加を期待したい。




■ プログラム表紙


■ 会場ロビーの様子


■ 予選出場順抽選


■ スタッフによる説明


■ 司会:伊藤 成 ■ 開会挨拶:全日本ギター協会代表 志田英利子


■ ゲスト演奏:中里一雄氏(第9回全日本アマチュアギターコンクール優勝者)


■ 予選合格者発表、本選出場順抽選会


■ 本選の演奏が終わり、審査の間恒例となったインタビューを受けるゲスト演奏者と本選出場者


■ 審査員[左より50音順] 江間常夫、志田英利子、荘村清志、高田元太郎、坪川真理子、中島晴美、堀江志磨


■ 表彰式:第1位山室敏博さんに賞状と副賞が授与された ■ 優勝者インタビュー:山室敏博さん


■ 講評:審査員代表 荘村清志


■ 本選出場者〔前列〕および審査員〔後列〕


■ 第1位:山室敏博さん ■ 第2位:園城寺哲男さん


■ 第3位および特別賞:島袋 操さん ■ モイスィコス賞(次席):伏見晃司さん


■ 入選:糸坂直志さん ■ 入選:大久保栄太さん ■ 入選:柴田光雄さん


■ 入選:三馬大志さん ■ 入選:山内文夫さん ■ 入選:渡辺年広さん


■ 賞品の一部


■ 終了後出場者一人ひとりに各審査員筆記のコメントが手渡された


■ 審査員およびスタッフ


PHOTOGRAPHS (C) 2009 NORIYUKI AWATO