2016/9/7




コンクールレポート●
「第17回全日本アマチュアギターコンクール」

主催:全日本ギター協会
レポート:審査員 坪川真理子

 

2016年8月13日(土)、第17回全日本アマチュアギターコンクールが例年通り三鷹市芸術文化センター・風のホールで開催されました。

 今回はいつもの8月末にホールが取れなかったため、初めてお盆の時期に開催となったが、申込者89名、第2次予選応募が86名で影響は大きくなかったようだ。そのうち合格者が50名、最終予選は2名が欠場して48名中、10名が本選に進んだ。審査員は50音順に、井桁典子、石田忠、志田英利子、坪川真理子(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト益田正洋(ギタリスト)の6名(佐藤弘和、中島晴美は都合により欠席)。

<最終予選>
課題曲:練習曲Op.31-10カンタービレ(ソル)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定

 まず、6月上旬に行われた第2次予選テープ審査課題曲は「プレリュード第7番」(ショパン~タレガ編)(現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用)だったが、予想以上に読譜ミスが多かった。2小節の3拍目下のソは、運指が3となっているためかシャープを付けてしまっている人がかなりいたが、これはナチュラルの音で、次の重音を弾きやすくするためこの運指となっているようだ。また、12小節の3拍目の中音レは1拍目のシャープが生きているのだが、ナチュラルで弾いている人が数人いた。そして、13小節の3拍目下の音はレのナチュラルだが、2拍目と同じミのままになっている演奏が見受けられた。技術的な審査ポイントとしては、やはり重音や和音のすべての音が明瞭に出ているかどうか、ポジション移動がスムーズでレガートに弾けているかというところだった。また音楽的には、メトロノミックではなく、ショパンらしい上品で優美な演奏が求められたと思う。全日本ギター協会委員6名の審査員(50音順に石田忠、佐藤弘和、志田英利子、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト))が5点満点で採点し、合計30点満点。読譜ミスについては1点減点と決まっているが、審査員全員が3点を付けた場合には合格しているので、その減点だけで不合格になった人はいない筈だ。不合格者に送られる審査員からのコメントには、読譜ミス以外のことも書かれていると思うので、そちらを参考にして頂きたい。

 最終予選課題曲の「カンタービレ」(ソル)は、技術的な落とし穴が多いので審査しやすい曲だったと思う。音ミスやリズムミスも少なからずあった。指定版がある場合は特に、楽譜を一から見直す必要があるだろう。なお、22小節3拍目重音のミに関しては、指定版ではナチュラルだがオリジナル譜ではシャープなので、ナチュラルでもシャープでも良いということになっていた(参加者にはテープ審査合格と共に通知)。また、技術的に弾けていても、カンタービレ(=歌うように)らしくない直線的な演奏で不合格になった人もいた。
 採点は5点満点で審査員6名分の合計を出す方法で、10名が合格となった。実は最後の2名の枠に22点が3名いて、審査員の話し合いとなったのだが、うち2名には合格点(4点以上)を付けた審査員が4人いたのに対し、もう一人(山岸協慈)には3名しか付けていなかったため、そこが合否のラインとなった。他に、僅差で不合格となったのは21点の越智栄輔、村松淳、森本晃吏の3人で、20点が島内和良、藤﨑哲郎、星野隆資、渡部信一の4人だった(以上50音順)。

<本選>
 自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)

 本選出場者発表前に前回優勝者・増田誠一郎がゲスト演奏を行った。以下、10名のレポートを演奏順に記す。「 」は他の審査員のコメントをまとめた。

 森山 隆(神奈川):ワルツ第4番(バリオス)
 本選出場2回目。低音弦がバテ気味なのか少しこもっているが、綺麗でクリアな音。全体的に小さなミスが散見され、中間部のアルペジオで低音が繋がらなかったのと、最後の弾き直しが惜しかった。「5分以上の規定にギリギリだったので、もう1曲短い曲を入れても良かったかもしれない」

 野原富男(埼玉):シンドラーのリストのテーマ(ウィリアムス)、粉屋の踊り(ファリャ)
 一昨年本選出場。出だしはメロディーを歌うが、緊張のせいか、ミスや度忘れが惜しかった。ファリャはリズミカルで思い切った演奏だった。「良いタッチをしている」「粉屋は舞曲なので、単音のメロディーが重くならないように」

 山口直哉(千葉):ワルツ第3番、第4番(バリオス)
 昨年本選出場。予選1位通過。やわらかい音で、多少のミスが気にならないような流れる音楽的な演奏。時間的制約のせいか、少し急ぎ気味の部分があった。コーダで少し荒れたが、勢いに乗って華やかに終わった。「流れは良いが、細部が少し雑」「ダイナミックレンジが広く、聴き応えがあった」<第2位>

 柴田陽太(北海道):マルボローの主題による変奏曲(ソル
 今回の本選では最年少の25歳。おとなしめだが誠実な演奏。メロディーと伴奏のバランスも良い。イントロや遅い変奏では、もっとビブラートを使って歌って欲しい。最終変奏は読譜ミスがあったようだ。「速い部分はもう少しリズム感を出すと良いのでは」
  
 箭田昌美(東京):椿姫の主題による幻想曲(タレガ~ボネル編)
 昨年次席。太い音で圧倒的に音量が大きい。難所は少し走り気味だったが、テクニックが安定している。音質の変化などの工夫がもう少し欲しいものの、安心して聴ける演奏だった。「曲をダイナミックに捉えていて良い」「演奏が前向きで飽きさせない」<第1位>

 久保田真悟(埼玉):椿姫の主題による幻想曲(アルカス~タレガ編)
 予選2位通過。調弦の音が大きいのが気になった。メロディーラインが細いのが惜しいが、音が綺麗で丁寧な演奏。最後はミスもあったが盛り上げて弾き切った。「曲の構成が分かりやすい」「バランスの良い演奏だった」<特別賞>

 矢﨑理江(山梨):パヴァーナ(タレガ)、スペイン舞曲第5番(グラナドス)
 本選出場3回目。確実に腕を上げている。クリアな音ですべての音をはっきり発音していて好印象。丁寧で確実な演奏だが、もっとビブラートなどを使って、更に音楽的な演奏を目指したい。「安定した演奏」「もっとノリと表情が欲しい」

 前田真悟(千葉):バーデンジャズ組曲より第1、3楽章(イルマル)
 本選出場3回目。少し乾いた音だが、メロディーをよく歌って聴かせる演奏。音量は小さめ。速い部分はスピードに乗り切れない部分もあったが、コントラストが分かりやすかった。「音に深みが欲しい」「3楽章はミスもあったが良いテンポだった」<次席>

村上佳子(神奈川):ロンドOp.43(コスト)
 少し細めの音。音質の変化やダイナミクスの音楽的工夫が欲しい。丁寧な演奏だが、ロマン派なのでもっと自由に演奏したい。「テンポ感は良いが拍子感に欠ける」「もっとメロディーを強調してはどうか」

 杉本みどり(神奈川):暁の鐘(デ・ラ・マーサ)
 昨年本選出場。とてもレガートでしなやかな演奏。トレモロも粒が揃って美しい。度忘れがあったが、フレージングが自然で心地良い。トレモロのダイナミクスを広げられれば更に良くなるだろう。「雰囲気がある演奏」「もう少し盛り上がりなど表情を付けて欲しい」 <第3位>


<総評>
 今回は、20代2人、30代1人、40代2人、50代2人、60代3人・・・とバランスは悪くなかったと思う。そんな中で、50代の箭田さんが優勝、60代の山口さんが第2位となった。今回もかなりの僅差で、オリンピックのように金メダルを2つ出せれば良いのに・・・という声が出たほどだ。1位を付けた審査員は、箭田さんに3人、山口さんに2人、杉本さんに1人だった(本選は6点満点で、1位〜6位にそれぞれ6〜1点を付けて合計する採点方法)。そして、特別賞は順位に関わらず印象に残った人という観点で選んでいるが、今回は次席の前田さんと僅差だったということもあって5位の久保田さんが選ばれた(7位以下は順位を付けていない)。
 個人的には、森山さんの時間不足と、山口さんの時間超過を心配したが、幸い二人ともセーフだった。もう少し余裕の持てるプログラミングを・・・と思ってしまうが、「どうしてもこの曲で!」というのがアマチュアの方々の熱い気持ちなのかもしれない。
 
 来年は、第1次予選(録音審査)課題曲が「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ(作者不詳)、くりかえし省略」。第2次予選(録音審査)が「ワルツ・アンダンティーノ」(カーノ)(くりかえし省略)、最終予選(公開審査)が「夢<マズルカ>(タレガ)」、(それぞれ現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用)となっている。
 是非また、大勢の方々のご参加や応援を期待したい。

         
 第1位:箭田昌美(東京)  第2位:山口直哉(千葉)  第3位:杉本みどり(神奈川)  次席:前田真悟(千葉)  特別賞:久保田真悟(埼玉)
         
  入選:柴田陽太(北海道) 入選:野原富男(埼玉)  入選:村上佳子(神奈川)   入選:森山 隆(神奈川)  入選:矢﨑理江(山梨)
         
ゲスト演奏:第16回全日本アマチュアギターコンクール 優勝者 増田誠一郎  講評:ゲスト審査員 益田正洋  開会挨拶:全日本ギター協会会長 志田英利子 総評:審査員代表 石田 忠  司会:伊藤 成 
 賞品の一部    入賞者〔前列〕、入選者〔中列〕および審査員〔後列〕