コンクールレポート●
「第18回全日本アマチュアギターコンクール」

主催:全日本ギター協会
レポート:審査員 坪川真理子

 2017年8月19日(土)、三鷹市文化センター・風のホールにて、第18回全日本アマチュアギターコンクールが開催されました。

 今年の応募者総数は87名。第1次(「禁じられた遊び」〜前半のみ)、第2次の録音予選で48名が合格。最終予選までに都合により1人棄権したが、当日はプログラムに記載の47名全員が参加した。本選に進んだのは、例年通り10名。審査員は7名で、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田忠、井上仁一郎、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト レオナルド・ブラーボ(ギタリスト)。

<第2次予選(録音審査)>
課題曲:ワルツ・アンダンティーノ(カーノ)/現代ギター社版「発表用ギター名曲集」指定(リピート省略)。

 6月初めに行われた録音による第2次予選は、「ワルツ・アンダンティーノ」で「繰り返しなし」だった。今年も再生不可能での失格者が1人いたのは残念でならない。リピートミスは1人いたが、元の点数が高かった(演奏が良かった)ので減点されても合格になった。また、その他に減点対象となる音ミス(読譜ミス)は、休符が足りない(1拍分足りずその小節だけ2拍子になっている)、ハーモニックスの音が違う、小節27の上声部の単音のところが複音になっている(2弦も弾いてしまっている)・・・などが数人に見受けられた。最後から2小節目の2拍目は、それまでの似たパターンとは音が違うのだが、同じように弾いていた人もいた。全体的には、付点のリズム感や、スラーの明確さ、各声部のバランス、そして適正なテンポで弾くことなどが主な審査ポイントになったと思う。
ちなみに、2次予選では不合格者のみ審査員からのコメントが送られているが、合格を付けた審査員はコメントを書いていないので、コメントの数で合格者を付けた審査員の人数が分かる。毎年ゲストを除いた本選審査員で審査しているので、今年は6名。つまり、コメントが3枚しかなければ半数は合格点(5点満点の4点以上)を付けているということだ(2点以下の不合格点と、どちらでもない3点を付けた場合もコメントを書くことになっている)。審査は6名の平均点で出しているので多数決ではないのだが、4名が合格点を付ければ普通は合格点に達する。全体の点数が低めなら、平均点が3点でも合格になることが多いので、コメント3~4枚ならもう一歩だったと考えられる。不合格だった方は、音ミスや録音方法に注意して再挑戦して頂きたいと思う。
それから、「(8小節目や最後の小節で)4分音符が2分音符になっている」というコメントがあったそうで数人の方から問い合わせを頂いたが、これに関しては音ミスとみなしていない(減点していない)。「休符が1拍足りない」と書かれているのはその小節だけ2拍子になっているパターンで、リズムミスとして減点となっている筈なので、楽譜を見直してみて欲しい。
 
<最終予選>
課題曲:夢<マズルカ>(タレガ)/現代ギター社版「発表用ギター名曲集」。

最終予選課題曲の「夢」は予想以上に難しかったようで、5点満点の5(絶対合格)を付けられる人が例年より少なかった。
気になったのは、特に冒頭部分を弾き急いでしまい、後半で遅速するパターンがかなり多かったことだ。もしかすると出だしの速さはプロの録音を真似ているのかもしれないが、テンポというのは相対的なもので、ゆったり弾けないとゆったり聴こえないものだ。自分にとって余裕のあるテンポなら、音楽さえ流れていれば多少遅めでも気にならない。後半は楽譜のリタルダンドが小節23後半からとなっているのに、21から遅速する人が多かった。もちろん表現はある程度自由なのだが、21から急にテンポを落とすと音楽表現のリタルダンドには聴こえない。
また、付点のリズムが甘過ぎたり、統一できていなかったり、装飾音が入ると3連符が崩れたり・・・とリズムがきちんと取れていない人も少なくなかった。装飾音付きの3連符は、まず装飾音抜きで練習して、次に装飾音を入れても3連符のリズムを崩さないように意識して欲しい。
そして、技術的に弾けていても音楽的表現が足りない(リタルダンドやブレスをほとんどしていない)人も合格点には届かなかった。ブレスは、フレーズ毎に実際に息を吸わないと浅くなってしまう。メロディーを歌いながら弾くのも良い練習になるだろう。
音ミスは例年より少なかったかもしれないが、小節3のパターンで1拍目裏の和音が違う人が何人もいて、減点せざるをえなかったのは残念。楽譜の運指につられたようで、低音ミに♯が付いていたり、中音ドに♯が付いていたり・・・このおかしな響きの間違いには気付いて欲しかったと思う。

 採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、今回は28点以上で10名が合格となった。ちなみに、27点は山内文夫、山口直哉、26点が森山隆で、もう一歩だった(以上50音順)。

<本選>
 自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)

 本選出場者発表前に昨年度優勝者の箭田(ヤダ)昌美がゲスト演奏し、インタビューなども行われた。以下、10名のレポートを演奏順に記す。「 」は他の審査員のコメントをまとめた。

 清田(キヨタ)和明(千葉):遠き空、感傷的なメヌエット(佐藤弘和)
  綺麗な音で、ごまかしのない丁寧な演奏。音量も大きいが、もう少し音質の変化やダイナミクスの幅が欲しい。また、左手の雑音が大きいのが気になった。「音色が単一で2曲目が単調に聴こえてしまった。」違うタイプの曲を並べていれば更に上位に食い込めていたのではないだろうか。<第3位>

 木村崇雅(シュウガ)(東京):タレガ賛歌(ポンセ)、小麦畑にて(ロドリーゴ)
 最年少23歳で予選1位通過。柔らかい音。右手の位置が常にサウンドホール寄りで、音が時々ぼやけるのが惜しかった。特に低音はもう少しブリッジ寄りの明瞭な音も欲しい。細かい傷はあるが、技術的に安定し音楽的な演奏だった。「流れが自然で心地良い」<第2位>

 江原(エハラ)正則(静岡):無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番~フーガBWV1001(バッハ)
  低音が時々繋がらない部分があったが、全体的には各声部が意識されていた。フレージングが甘くなるところがあったのが惜しい。ギターのコンクールにバッハは難しいと思うが、果敢に挑戦され、かなりのレベルまで弾き込まれていた。バッハはミスが目立って損・・・という声も聞かれた。「誠実な演奏だった」<特別賞>

 前田真悟(千葉):前奏曲ハ短調、告白のロマンサ(バリオス)
 低音をたっぷりと太い音で歌う。傷はあるが、ギターの良さを改めて感じるような心の込もった演奏だった。左手が難しいバリオスなので、ビリつきが多い。度忘れがあったようだが、うまく繋いだのは良かった。「もう少し拍子感を出し、大きなフレージングを意識して曲を作ってもらいたい」

 寺島光洋(神奈川):森に夢見る(バリオス)
 柔らかい音で、トレモロも粒が揃って綺麗だった。弾き直しがあったのが惜しかったが、難曲ということを感じさせないような、レガートで美しい演奏。更にダイナミクスが広がると良いだろう。審査員7名中4位が1位を付け、ダントツだった。<第1位>

杉本みどり(神奈川):3つのメキシコ民謡(ポンセ)
 昨年第3位。予選は美しい演奏で印象的だった。本選は調弦がもう一歩。左手に力が入り気味で、 特に3曲目はセーハでのミスが目立ってしまった。予選の音楽的な演奏を考えるともっと歌って欲しいが、曲の難易度が高過ぎたかもしれない。「リズムが軽く流れて気持ち良い演奏」

 金居秀治(埼玉):マジョルカ(アルベニス)
 美しい音色でよく歌っているが、難しいところを弾き飛ばし気味なのが惜しい。何度も同じフレーズが出てくるので、音色の変化などの工夫が欲しかった。入賞には届かなかったが、高めに評価した審査員もいた。「スペインロマン派の香りがした」

 佐々木宣博:アルカニス(トローバ)、シュルホフの想い出(メルツ)
 2012年、2014年第2位。8弦ギターで演奏。甘い響きでメルツには効果的だったが、トローバには合わない。ギターのせいも大きいが、歯切れが悪くリズム感を出せなかったのが残念。「安定感はあったがインパクトが薄かった」「歌を優先させてメリハリが欠けていた。」実力はあるので、選曲にも力を入れて欲しい。<次席>

 柴田陽太(北海道):黒いデカメロン~恋する乙女のバラード(ブローウェル)
 柔らかい音。A部は雰囲気良く弾けているが、B部とC部のリズムが正確でない(16分休符が長過ぎる)のが残念だった。C部には読譜ミスもあった。「後半はもう少し前向きに弾かないと飽きてしまうが、前半は流れに乗って良かった」

渡部信一(神奈川):大聖堂第1、3楽章(バリオス)
 一昨年本選出場。度忘れがあり、弾き直したのは惜しかったが、一昨年より精神面が鍛えられたようだ。遅くなりがちなC部でテンポを保って弾き切ったのも素晴らしかった。「テクニックが難しい分、ダイナミックレンジなどの表現が少し甘かったが、美しい音色で弾けていた」

 

<総評>
 まず、今年は初めてICE(アイス)という カナダで実施されている学習とプロセスの評価方法を最終予選と本選の審査に取り入れた。IはIdeasの頭文字で、基礎知識や技術力(楽譜に書かれていることを正しく再現する)。C(Connections)は表現力(技術や知識を繋げ、楽譜にないことも表現する)、E(Extensions)は総合力(独自の魅力ある演奏で人に感動を与える)。つまり、Iの基礎力だけでなく、Cの表現力、更にEの感動を与えられる力の3段階だ。
本選の採点は6点満点で、1位〜6位にそれぞれ6〜1点を付けて合計する方法。7位以下は0点。)
 毎年5位以下の順位は付けていないので、特別賞は印象に残った人という観点で選んでいるのだが、今回は点数的にも5位だった江原さんに決まった。他に、ギターならではの歌を聴かせてくれた前田さん、大聖堂を大きな破綻なく弾き切った渡部さんも候補に挙がったが、やはりバッハのフーガを良いレベルで弾いた江原さんを推す声が多かった。
 
年代的には20代2人、30代3人、50代1人、60代4人ということでバランスは悪くなかったが、1位~次席の4人は全員20代~30代という、このコンクールには珍しい、というより初めての結果となった。ちなみに、1位を付けたのは寺島さんに4人、木村さんに2人、清田さんに1人。合計点差は5点ずつで、3位の清田さんと次席の佐々木さんは2点の僅差だった。
 今回は最終予選のレベルが今一つだった割に、本選は充分なレベルという印象。新しい審査方法に慣れないこともあって私たちも頭を悩ませながらの審査となったが、特に審査基準が変わったということではない。最終予選参加者の方々にお渡しした5角形の表は、視覚的にも分かりやすかったのではないだろうか。
 本選は難易度が高い曲も多く、参加者の実力はそれほど大きくは変わらない印象だったが、最終的に点差がはっきり開いたのはプログラミングの差が大きかったのではないかと思う。アマチュアのためのコンクールなので好きな曲を弾いて頂くのが一番ではあるが、上位を狙いたければやはり余裕のある曲で完成度を上げるのが良いだろうし、2曲並べるのであれば違うタイプの曲をお勧めしたいと思う。
コンクールによって、審査基準も違えば好まれる曲も違う。受験と同じように、各コンクール向けの「傾向と対策」も大事なのではないだろうか。もちろん、そんな必要もなくどこに行っても通用する「総合力」があれば、怖い物なしではあるのだが・・・!
 そして、本選対策の前に、何より大切なのはやはり最終予選だ。今回のような曲が苦手なのは基礎力が足りない証拠なので、まずは「I」の基礎技術、基礎知識を付けることが必要になってくるだろう。
 
 来年は、毎年同じ第1次予選(テープ審査)課題曲が「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ、繰り返し省略(作者不詳)」。第2次予選(録音審査)が「タンゴOp.19-1(フェレール)」、最終予選(公開審査)は「アメリアの遺言」(リョベート)(いずれも繰り返し省略、現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用)となっている。来年も是非、(応援も含め)また多くの方々にご参加頂きたい。

       
 第1位 寺島光洋 第2位 木村崇雅  第3位 清田和明 次席 佐々木宣博 特別賞 江原正則
 
入選 前田真悟  入選 杉本みどり  入選 金居秀治  入選 柴田陽太   入選 渡部信一 
    
 ゲスト審査員ゲスト レオナルド・ブラーボ氏より表彰式  開会挨拶:
全日本ギター協会会長
志田英利子
総評:審査員代表 石田 忠 司会 松本佳子
ゲスト昨年度優勝演奏者
箭田昌美氏インタビュ
集合写真  賞品