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●コンクールレポート●
「第8回全日本アマチュアギターコンクール」
主催:全日本ギター協会
レポート:審査員代表 小川和隆



2007年8月19日(日)、三鷹市芸術文化センター 風のホールにおいて第8回全日本アマチュアギターコンクール』が行われました。
以下は今回の審査員代表である小川和隆氏によるレポートを抜粋でお伝えするものです。
全文は月刊「現代ギター」2007年10月号(No.518) pp.53-55に掲載されていますのでそちらをご覧ください。




他のコンクールとは一線を画して行われているこのコンクールに今回僕は審査員として参加した。
参加申込者76名より2回のテープ審査を通過した50名中、当日棄権の4名を除く46名がこの日の最終予選で演奏し、10名が本選へ進んだ。
審査員は全日本ギター協会から代表の志田英利子、委員の江間常夫、エルマンノ・ボッティリエーリ、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)と、ゲスト審査員として坪川真理子、小川和隆(以上ギタリスト)の7名。


■最終予選

課題曲:メヌエット・イ長調 Op.11-6 (ソル)

ソルのメヌエットの中でも最もよく弾かれる名曲で、46回聴いてもまったく飽きない。とはいえ昨年のタレガの<エンデチャとオレムス>に比べて個性的な演奏は少なかった。古典の様式を意識していると言えなくはないが、踊るメヌエットではなく、よりファンタジーの感じられる作品と僕は考えているのでMaestosoとdolceの表情の幅、フレーズによるキャラクターの違いなど、もっと大胆な表現がほしい。テクニック的に目立つ細かいアルペジョでは音の分離の充分でない人が多かったが、それでも大きなクレッシェンドを感じさせる演奏はあった。テクニックの向上は重要だが、今自分の持っているテクニックでどうやってさまざまな音楽的な表現を実現するかを考えることの大切さを教えられた。最後の高音部での装飾的なメロディーは多くの人がかなり自由に弾いていてうれしかった。
このコンクールでは予選の「審査評価」を参加者全員に渡している。メロディー、和音、リズム、テンポ、表現力、感動力、調弦、ステージマナーの8項目について、「改善が必要」「概ね満足」「とても良い」を罫線上にマークし、必要ならばコメントを付けるというものだ。短い時間でそう細かいことは書けないが、審査員それぞれの意見がさまざまであることも含めていい参考になると思う。

予選審査の間、昨年の優勝者亀田裕之がゲストとして演奏。曲目はプレリュード・フーガ・アレグロ BWV998 (バッハ)とマルボローの主題による変奏曲 Op.28 (ソル)。


■本 選

課題曲はなく、5分以上8分以内の自由曲のみで最終予選を通過した10名が演奏した。

(演奏順)

川崎裕子/南のソナチネ第1楽章「カンポ」 (ポンセ)
美しい音色で、間(ま)の取り方、リズム感が素晴らしい。提示部の終わり近くで迷ってしまい、その動揺から抜け出せず残念だったが、ポンセの<カンポ>のイメージの広がりを感じさせてくれた。ステージでの緊張の中でも持ち前の繊細さを発揮できるよう、メンタルな部分も含めて努力してほしい。

吉井佳実/マジョルカ (アルベニス)
イントロが滑ったようなリズムで、「バルカローレ」の意識が弱いが、歌の大きなフレーズ感はとてもいい。中間部のメジャーの部分で迷ってしまったのは惜しかったが頑張って最後まで弾ききった。

園城寺哲男/無伴奏チェロ組曲第1番 BWV1007 よりプレリュード (バッハ)、ワルツ Op.8-4 (バリオス)
バッハは低音の付加の少ないアレンジで好感を持てたが、全編フォルテで弾き通す感じで音楽の変化が感じられない。バリオスではもっとリズムが弾んでほしいが、きらびやかな音色でしっかりしたテクニックをみせてくれた。

大山光江/椿姫の主題による幻想曲 (アルカス~タレガ)
アルカス(タレガ)の書き方のせいもあるのだが、低音部が響き過ぎて高音のメロディーが浮かび上がらない。しかしマイナーの歌への思いは良く伝わるし、トレモロの後のE#を経てニ長調への転調は胸を締めつけるような緊張感に満ちて美しかった。続くアレグロのノリとラストのシメも鮮やか。

中里一雄/愛のワルツ (ノイマン)、カタルーニャ奇想曲 (アルベニス)
ホールいっぱいに響き渡るいい音を聴かせてくれた。ワルツの歌、リズム、間(ま)は素晴らしいので、曲全体の構成を考えたらさらに説得力のある音楽になるだろう。アルベニスの奇想曲は身体全体で感じるリズムが心地よく、パッションに満ちた好演。

大野加奈代/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 BWV1003 よりグラーヴェとアレグロ (バッハ)
10弦ギターをフルに響かせて華やかな音楽を聴かせてくれた。細かいアーティキュレーションも良く考えられていてバロックの様式の把握もしっかりしている。難しいアレグロを鮮やかに弾くテクニックと演奏のテンションの高さは他を圧倒していて会場の雰囲気を一変させた。

糸坂直志/マジョルカ (アルベニス)
ゆったりしたバルカローレのリズムと柔らかな音色にホッとさせられる。細かいミスをマイナスに感じさせない良い流れを持っている。ダカーポ後のメロディーは特に美しく心を打つ音楽で、エンディングのリタルダンドは息をのむ余韻を醸し出していた。

森本素子/椿姫の主題による幻想曲 (アルカス~タレガ)
歌の表情とリズムが身体全体からわき出してくる! メロディーと伴奏のバランスが良く、トレモロも美しく、いいテクニックを感じる。ボネル編のカデンツも良く活かされていて、僕自身は初めてこの部分の意味を感じることができた。アレグロでもノリの良さに加えて最後へ向かってのメリハリまで考えられていて感動的だった。

比嘉隆則/幻想曲 Op.40 (ソル)
変奏で3度の連続やハーモニクスなど技巧的な面が目立って「練習曲」のようになりやすい作品で、比嘉の演奏もそちらの方向を向いている。3度の連続は美しく、テクニック的には素晴らしいものを持っていることは間違いないのだが、テーマは元気過ぎて、元歌のスコットランド民謡<ドゥーンの岸辺>の味わいは僕のイメージとのギャップが大きくて正直困った。

末積 武/愛のワルツ (ノイマン)、メランコニア (ジュリアーニ)
滋味に溢れるメランコリーを感じさせてくれて、僕個人としては今回最も感動した音楽。ワルツの低音部のメロディーには涙をそそられたし、メランコニアにもそこに込められた演奏者の気持ちが満ち溢れている。

審査結果は、第1位:大野加奈代、第2位:森本素子、第3位:比嘉隆則、モイスィコス賞:糸坂直志、特別賞:末積 武

今回は終了後に参加者、聴衆、審査員による懇親会がもたれた。参加者全員が出席した訳ではないが、予選の「審査評価」を手に参加者と審査員が意見を交換しあい、聴衆からも意見、感想を聞くことができてとても意義のある時間だった。その中で、僕が「舞台上でチューナーで調弦するのは反対」と書いた参加者から「廊下で調弦した後、気温の違う舞台袖で待っているうちに狂うから」という意見を聞いた。なるほど! そういうこともあるか! しかし、音は耳で聴くのであって、舞台上でチューナーを見ながら開放弦を鳴らしているのは僕にはとても異様な姿に見える。合奏ならともかく、ソロやデュオでは自分の耳で合わせられるようになってほしい。自信がないなら袖でうんと小さな音でチューナーを使うテクニックを磨くとか... こんなことを考えられたのも懇親会の収穫のひとつ。こういった動きが広まることを願う。




■ プログラム表紙


■ 司会:伊藤 成 ■ 開会挨拶:全日本ギター協会代表 志田英利子


■ ゲスト演奏:亀田裕之氏(第7回全日本アマチュアギターコンクール優勝者)


■ 最終予選合格者発表、本選出場順抽選会


■ 本選の演奏が終わり、審査の間恒例となったインタビューを受けるゲスト演奏者と本選出場者


■ 審査員[左より50音順] 江間常夫、エルマンノ・ボッティリエーリ、小川和隆、志田英利子、坪川真理子、中島晴美、堀江志磨


■ 表彰式:第1位大野加奈代さんに賞状と副賞が授与された ■ 優勝者インタビュー:大野加奈代さん


■ 講評:審査員代表 小川和隆


■ 入賞者〔前列左よりモイスィコス賞(次席):糸坂直志さん、第2位:森本素子さん、第1位:大野加奈代さん、第3位:比嘉隆則さん、特別賞:末積 武さん〕及び審査員〔後列〕


■ 第1位:大野加奈代さん ■ 第2位:森本素子さん ■ 第3位:比嘉隆則さん


■ モイスィコス賞(次席):糸坂直志さん ■ 特別賞:末積 武さん


■ 本選出場:大山光江さん ■ 本選出場:園城寺哲男さん ■ 本選出場:川崎裕子さん


■ 本選出場:中里一雄さん ■ 本選出場:吉井佳実さん


■ 賞品の一部


■ 参加者、聴講者、審査員による懇親会がコンクール後に行われた


PHOTOGRAPHS (C) 2007 NORIYUKI AWATO