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●コンクールレポート●
「第9回全日本アマチュアギターコンクール」
主催:全日本ギター協会
レポート:審査員 坪川真理子



2008年8月24日(日)、『第9回全日本アマチュアギターコンクール』例年どおり三鷹市芸術文化センター 風のホールにおいて開催されました。
以下は
昨年に続き審査員を務めた坪川真理子氏による個人的レポートである事をご了承ください。
月刊「現代ギター」2008年11月号(No.532) pp.40-41にも昨年審査員代表を務めた小川和隆氏によるレポートが掲載されていますのであわせてご覧ください。




今回は参加申し込み75名のうち第2次予選合格者50名によって最終予選が競われ、11名が本選に駒を進めた。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 井桁典子、江間常夫、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト 高田元太郎(ギタリスト)の7名。


■最終予選

課題曲:トリーハ「哀歌」(トローバ)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定

まず、棄権が一人もいなかったのは嬉しい驚きだった。今まで様々なコンクール観戦をしてきたが、大人数の予選で棄権なしというのは本当に珍しい。
課題曲の「トリーハ」は、単音のメロディーをアポヤンドで太く良い音で弾き、その後アルアイレでの複音や和音で急に細い音になってしまう人が多く、その差が気になった。アルアイレでも太い音を出せるようタッチを研究すべきだが、差をなくすには出だしからアルアイレで統一する方が簡単かもしれない。
次に、楽譜のテンポルバートやaccel.などを自然にできている人が少なかった。また、指定の楽譜と違う(他の版の)音を弾いていた人が数人いたのは非常に残念。コンクールでは指定版に従う事が絶対であり、違う音があると「ミス」として採点されてしまう。もちろん圧倒的に巧ければ多少減点しても合格になる場合もあるが、不利になる事は間違いないので注意が必要だ。
この小品は案外難しいので技術的な事に気を取られがちだが、それを乗り越えてメロディーをつなぎ、音楽的に歌えたかどうかがポイントになった。また、音色や響きは2階で聴いていると非常に大きな差があり評価に影響した。(このコンクールでは審査員も席は自由でそれぞれ好きなところに座るのだが、ずっと同じ席で聴く事が定められている。ちなみにほとんどの審査員は2階席にいた。)個人的には、昨年のソルのメヌエットなどに比べて技術・音楽共に実力が測りやすく、明らかな差が付いたので審査しやすかったのは意外だった。
採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、27点以上の11名が本選出場となった。普通はボーダーライン付近の人が多くて困るのだが今回ははっきりと分かれ、26点はなし、25点が2名(末積 武、渡辺年宏)、24点が4名(奥 深里、河原 稔、鈴木輝彦、藤田貴代/以上50音順)だった事をご報告しておく。


■本選

自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点)

予選の時間が長引き、審査中にゲスト演奏(昨年度優勝者・大野加奈代)を挟んで、その後の合格者発表から本選開始まで15分しかないという、本選参加者にはハードなスケジュールとなってしまった。コンクールの勝敗にはくじ運も関係する場合があるが、特に最初の3名の方は演奏に精神的な慌ただしさが表れた様子だったのはコンクール企画側として申し訳ない限りだった。
以下、11名のレポートを演奏順に記す。

山内文夫(千葉):アッシャー・ワルツ(コシュキン)
最初から気合いが入っていたが、前半は細かいパッセージで特に右手が追い付いておらず、音楽的にまとめきれなかった印象。弾き直しもあったが、後半は余裕が出てきて吹っ切れた感じの演奏が良かった。 

三馬大志(埼玉):スペイン・セレナーデ(マラッツ)
読譜ミスがあったのが惜しい。気持ちを込めて弾いているが、もう少し伴奏を軽めに、メロディーを意識して歌えると良いと思う。度忘れがあったが、止まらずに弾き切ったのは素晴らしかった。

佐々木信暢(のぶまさ)(神奈川):ボレロ(ラヴェル)
ピチカートを使いppで始まったのがとても効果的だった。緊張からか弾き直しに続きミスがあったのが惜しいが、少しずつ調子が上がってきて、最後はリズムに乗り切れていない感じはあったものの大いに盛り上がった。

山室敏博(千葉):朱色の塔(アルベニス)
冒頭のアルペジオの粒が揃わず固まってしまった部分があったが、メロディーをよく歌って伴奏と弾き分けられていて、難所も弾き飛ばさずにきちんと弾けていた。ffの和音がもう一歩出ると更に良かったと思う。熱い演奏で印象に残る好演だった。
<第2位>

小澤公美(東京):マズルカ・ショーロ、ガボット・ショーロ(ヴィラ=ロボス)
ガボット・ショーロでは、細かいミスがあったが丁寧に弾いていて好印象。最後の盛り上がりがもう一歩で惜しい。ガボット・ショーロもよく弾けているのだが、繰り返しが多いので飽きさせずに聴かせるにはもう一工夫欲しいところだ。ダイナミックレンジがもう少し広がれば印象が変わるだろう。

鹿野誠一(北海道):もしも私が羊歯だったらによる変奏曲(ソル)
調弦が合っていなかったのが惜しいが、速い動きの部分も指がまわっている。音量変化が少し物足りないが、全体的に難所もよく弾けていて、変奏が進むにつれ良くなり最後まで弾き切った。

長谷川武(東京):さくらによる主題と変奏(横尾幸弘)
音が細くて固いが、この曲には合っている印象。調弦がもう一歩だったのと、やはりダイナミックレンジが狭いので盛り上がりに欠けるのが惜しいが、細かいパッセージも粒が揃っていて綺麗だった。
<第3位>

園城寺(おんじょうじ)哲男(茨城):無伴奏チェロ組曲第5番よりプレリュード(バッハ)
音量もたっぷりしていて柔らかい音。フーガの部分(アレグロ)に入ってからが少し重い感じがしたが、同じテンポでも3拍で数えず1小節を1でカウントするだけで軽くなるだろう。和音の響きを大事に、もう少し柔らかく横のライン(すべての声部)を捕らえられれば理想的だが、難曲をよく弾いていて評価が高かった。
<モイスィコス賞(次席)>

柴田光雄(埼玉):練習曲第7番(ヴィラ=ロボス)、歌と舞曲第13番(モンポウ)
音は細めだがよく響いている。ヴィラ=ロボスでは和音の部分で速くなってリズムを崩し、トリル部分で遅くなってしまったのが惜しい。モンポウは和音をもう少しレガートに響きを楽しみたいが、丁寧に美しく歌っていた。

中里一雄(東京):カスティーリャの歌(R.S.デ・ラ・マーサ)
ホール中に響いていた音が素晴らしかった。最後の踊りはテンポを一定に、全体的には歌と踊りのコントラストを出せると更に良くなるだろう。見かけより難しい曲でコンクール向きではないと思うのだが、完成度の高い演奏が審査員全員から評価された。
<第1位>
 
小林淳一(東京):ショーロス第1番(ヴィラ=ロボス)
付点がはまっていなかったのが惜しいが、中間部の低音の響きはヴィラ=ロボスらしくて良かった。全体的に、リズミカルな部分と歌う部分のコントラストをもう少し出せると更に良くなると思う。


<総評>
今回は驚くほど審査員の票が割れたのだが、その中で偏りなく高得点をマークした中里さんがダントツの1位となった。ミスの減点の仕方や、技術と音楽のどちらを多めに見るかによって審査は大きく変わってくるが、アマチュアコンクールという性格上、他のコンクールよりも「歌い方」と「音の響き」を重要視している審査員が多いのではないかと思う。とは言えもちろんコンクールなので、技術的に弾けている事が前提だし、ミスなどは減点せざるを得ない。今回のように審査員全員が納得の1位を出せるのは、気持ちが良いものだ。


来年は8月23日(日)、会場は例年どおり三鷹市芸術文化センター 風のホールに決定している。記念すべき「第10回スペシャル!」という事で、テープ審査なしで全員がステージで演奏できる特別企画、課題曲は「愛のロマンス(禁じられた遊び)/現代ギター社版『発表会用ギター名曲集』使用」(リピートは省略(D.C.はありの予定だが人数次第で省略になる可能性もあり)、そしてゲスト審査員には荘村清志氏をお迎えする事となり、初挑戦の方も含め、多くの方々の参加を期待したい。企画側としては、大幅な参加者増にも対応できるよう対策を練る所存でいるので、ご意見などもお待ちしている。




■ プログラム表紙


■ 受付


■ 最終予選出場順抽選会


■ 司会:伊藤 成 ■ 開会挨拶:全日本ギター協会代表 志田英利子


■ ゲスト演奏:大野加奈代氏(第8回全日本アマチュアギターコンクール優勝者)


■ 最終予選合格者発表、本選出場順抽選会


■ 本選の演奏が終わり、審査の間恒例となったインタビューを受けるゲスト演奏者と本選出場者


■ 審査員[左より50音順] 井桁典子、江間常夫、志田英利子、高田元太郎、坪川真理子、中島晴美、堀江志磨


■ 表彰式:第1位中里一雄さんに賞状と副賞が授与された ■ 優勝者インタビュー:中里一雄さん


■ 審査員代表 高田元太郎より本選出場者全員に記念楯と記念品が授与された


■ 講評:審査員代表 高田元太郎


■ 入賞者〔前列左よりモイスィコス賞(次席):園城寺哲男さん、第2位:山室敏博さん、第1位:中里一雄さん、第3位:長谷川武さん〕及び審査員〔後列〕


■ 本選出場者〔1列目・2列目〕及び審査員〔3列目〕


■ 第1位:中里一雄さん ■ 第2位:山室敏博さん ■ 第3位:長谷川武さん


■ モイスィコス賞(次席):園城寺哲男さん ■ 本選出場:小澤公美さん ■ 本選出場:小林淳一さん


■ 本選出場:佐々木信暢さん ■ 本選出場:鹿野誠一さん ■ 本選出場:柴田光雄さん


■ 本選出場:三馬大志さん ■ 本選出場:山内文夫さん


■ 賞品の一部


■ 参加者、聴講者、審査員による懇親会がコンクール後に行われた


PHOTOGRAPHS (C) 2008 NORIYUKI AWATO