●コンクールレポート● |
2010年8月22日(日)、『第11回全日本アマチュアギターコンクール』が例年どおり三鷹市芸術文化センター風のホールにおいて開催されました。
昨年同様、以下は審査員を務めた坪川真理子氏による個人的レポートであることをご了承ください。
月刊「現代ギター」2010年11月号(No.559) pp.57-59にも以前審査員代表を務めた小川和隆氏によるレポートが掲載されていますのであわせてご覧ください。
今回は、昨年より2名多い応募者89名から第2次(テープ)予選に合格した50名のうち1名が欠場、49名で最終予選が競われた。9名が選ばれたが、体調不良で1名が棄権したため本選出場者は8名となった。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田 忠、高田元太郎、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト 藤井敬吾(作曲家・ギタリスト)の7名。
■最終予選
課題曲:エストレリータ(ポンセ)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定
まず、前もって行われたテープの第2次予選は「アデリータ」(タレガ)で「リピートなし、D.C.(ダ・カーポ)あり」だったのだが、指定版の現代ギター社「発表会用ギター名曲集」ではAA『B』Aという表記(Aが前半、Bが後半で『 』がリピート記号)だったのが紛らわしかったようで、「リピートなし=リピート記号を省略」という意味を、Aは同じことの繰り返しなのでリピート、と勘違いし(もしくは『A』『B』Aという表記の版を使って)ABAで録音した人が少なからずいて、もったいないことに減点対象となってしまった。(それでも演奏が非常によかった人は無事合格したことを強調しておきたい。)たしかにこれは他の版で慣れていると勘違いしやすいが、協会に問い合わせた人もいたそうで、正しくAABAで演奏していた人が大半だったので、指定版には細心の注意が必要だ。さらに、B部分では和音の読譜ミスが時々見られ、これも減点対象となった。テープ審査不合格者には審査員からのコメントが届いたはずなので、心当たりのある方は次回から十分気を付けていただきたい。
前置きが長くなったが、最終予選課題曲の「エストレリータ」も現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定で「リピートなし」だった(表記は『A』『B』)。テープ審査の経験から、最終予選開始前にリピート間違いを減点にするか失格にするか、という議論になり、「ルールなのだから失格にすべき」という意見と「減点で十分では」という意見に分かれたが、多数決で失格、ということに決定していた。
結論から言えば、今回は全員が正しくABで演奏しており、失格者を出さなくてすんだのはうれしかった。
「エストレリータ」はところどころに難所があり、それを感じさせずにメロディーと伴奏を弾き分けていかに自然に歌えるか、というのが最大のポイントだったと思う。原曲は歌ということもあり、実際に歌うようにブレス(息つぎ)も必要だし、「伴奏はメロディーの邪魔をしないように」と言ってもベース音はたっぷり、和音も内声まで聴こえなければいけない。基本的なミスとしては、小節20の3連符のリズムが取れていない(速過ぎる)、特に後半部分の和音の読譜ミスなどが時々見られた。「文句なしで予選通過」というレベルに達していた人は意外と少なかったが、シンプルな割にそれだけ難しい曲だったと言えるだろう。
採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、26点以上の9名が合格となった。本選には10名~11名までは出せるのだが、ボーダーラインの25点が3名(有賀勝巳、大森拓美、渡邊綾子)で全員入れると12名となってしまうため、今回は少なめだが9名ということで確定した。結局、佐々木信暢が出場を辞退したため、本選は8名で競われることになった。さらに、24点は廣岡甲太郎、増田誠一郎の2名だったことをご報告しておく(以上50音順)。
■本選
自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点)
本選出場者発表前に昨年度優勝者・山室敏博がゲスト演奏を行い、その間に審査が終わる予定だったのだが、何人残すかで揉めたため長引いてしまった。今回は人数が少ないので、急遽開始時間を10分遅らせることになった。
以下、8名のレポートを演奏順に記す。
賀谷直樹(北海道):イギリス組曲1~3楽章(デュアルテ)
雰囲気はあるが、緊張のためか出だしはミスが多く、全体的に和声の変化がわかりにくかった。低音を意識するとよくなるだろう。3楽章は飛ばし過ぎのせいか消化不良ぎみで、もう少しスピードを落として丁寧に演奏したい。
佐々木宣博(東京):愛の歌(メルツ)、アディオス・ムチャーチョス(サンデルス~ディアンス編)
最終予選1位通過。「愛の歌」は太くて綺麗な音でよく歌っていた。「アディオス・ムチャーチョス」は難しい編曲がまだ手の内に入っていない感じで乗りきれず、審査員室でも「もう少し簡単な編曲であれば・・・」という声が聞かれた。これからさらに上位を狙えるだろう。<第3位>
三馬大志(埼玉):アラビア風奇想曲(タレガ)
柔らかい音で余裕のある演奏だった。多少の傷はあるが、スラーもなめらかに自然で上品な歌い回しが印象的。度忘れが惜しかったが、止まらずに弾ききって評価され、特別賞にも名前が挙がっていた。<第2位>
山本孔彦(東京):丘を下りつつ(ロドリーゴ)
全体的に柔らかく歌っていたが、ロドリーゴならではの不協和音まで柔らか過ぎて表情が薄くなってしまった。弾きにくい曲を頑張ってはいるが、もう少しアクセントなどを利かせてスペインらしさを出す工夫が欲しい。
山口恵一郎(千葉):独創的幻想曲(ヴィーニャス)
よい音で音楽的、安定感のある演奏なのだが、時々右手のコントロールを失い、トレモロは粒が揃わなかったのが惜しい。せっかくダイナミクスレンジが広いので、クライマックスを盛り上げるなどもっと抑揚をつけたい。<次席>
東條 巖(東京):アラビア風奇想曲(タレガ)
大半はゆったり歌えているのに、冒頭のスラーや速いパッセージで慌てすぎなのが惜しかった。多少癖はあるが、こだわりが感じられる演奏で、大多数の推薦で特別賞となった。<特別賞>
監物 拓(神奈川):アンダルーサ(グラナドス)、カナリオス(サンス)
太い低音が印象的。全体的に和音の押さえやハーモニクスが雑なのが残念だった。カナリオスは弾き飛ばしている感じで、もっと2拍子を意識して舞曲らしさを出せるとよくなるだろう。
岩堀恭宏(茨城):ハンガリー幻想曲(メルツ)
少しこもりぎみだが太い音。指はよくまわっているが、速いパッセージになると拍を失うのが気になった。最後は弾き飛ばし気味の感じはあったが、推進力のある演奏で盛り上げた。<第1位>
<総評>
今回は審査員の票が割れたが、その中で3人の審査員が1位をつけた岩堀さんが優勝となった。(本選は6点満点で、1位~6位にそれぞれ6~1点をつけて合計する採点方法。)他には、山口さんに2名、三馬さんに1名、佐々木さんに1名が1位をつけていた。総合では岩堀さんが31点、三馬さんが29点、佐々木さんが27点、山口さんが26点となり、次席まではかなりの接戦であった。
コンクールの審査をするたびに思うが、特に課題曲がない場合、採点するのはとても難しい。私はなるべくテクニックと音楽をちょうど半々で審査しているつもりだが、音の響きだけでも印象がかなり変わってくる。よい音を出すこともテクニックの一つなのだ。
それから、今年は予選から演奏中に、客席で足台を落とすような大きな音が何度もあったのが気になった。演奏にも影響を及ぼすことがあるので、聴衆の方々には細心の注意をお願いしたいと思う。
来年は8月21日(日)、例年どおり会場は三鷹市芸術文化センター風のホールに決定した。第1次予選(テープ審査)課題曲は毎年同じで、「愛のロマンス(禁じられた遊び)~前半のみ(作者不詳)」。第2次予選(テープ審査)が「ワルツホ長調Op.32-2(ソル)」、最終予選(公開審査)が「盗賊の歌(リョベート)」、(いずれも現代ギター社版「発表会用ギター名曲集(1・2巻)を使用し、リピートは省略、D.C.(ダ・カーポ)は付けること」となっている。初挑戦、再挑戦を問わず、また多くの方々の参加を期待したい。
■ プログラム表紙
■ 会場となった三鷹市芸術文化センター
■ ギター製作家込山修一氏によるギター無料クリニック
■ 最終予選出場順抽選会
■ ゲスト演奏:山室敏博さん(第10回全日本アマチュアギターコンクール優勝者)
■ 最終予選合格者発表、本選出場順抽選会
■ 本選の演奏が終わり、審査の間恒例となったインタビューを受けるゲスト演奏者と本選出場者
■ 審査員[左より50音順]志田英利子、高田元太郎、坪川真理子、中島晴美、藤井敬吾、堀江志磨
■ 表彰式:第1位岩堀恭宏さんに賞状と副賞が授与された
■ 講評:審査員代表 石田 忠
■ 本選出場者〔前列〕および審査員〔後列〕
■ 第1位:岩堀恭宏さん(茨城) ■ 第2位:三馬大志さん(埼玉)
■ 第3位:佐々木宣博さん(東京) ■ 次席:山口恵一郎さん(千葉) ■ 特別賞:東條 巖さん(東京)
■ 入選:賀谷直樹さん(北海道) ■ 入選:監物 拓さん(神奈川) ■ 入選:山本孔彦さん(東京)
■ 賞品の一部
■ 審査員室の様子
■ 参加者、聴講者、審査員による懇親会がコンクール後に行われた
PHOTOGRAPHS (C) 2010 NORIYUKI AWATO