●コンクールレポート● |
2012年8月25日(土)、第13回全日本アマチュアギターコンクールが例年通り三鷹市文化センター・風のホールで催されました。
以下は、審査員の1人、坪川真理子の個人的レポートである事をご了承下さい。
今回は過去最高の94名の申し込みがあったが、第2次(テープ)予選の提出は89名、そのうち合格者が49名。最終予選は3名が欠場したため、46名で競われ、うち10名が本選に進んだ。
審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田忠、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、佐藤弘和(作曲家・ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト 鈴木大介(ギタリスト)の7名。
<最終予選>
課題曲:組曲ニ短調よりブーレ、ジーグ(ド・ヴィゼー)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定
まず、6月上旬に行われた第2次予選テープ審査課題曲は「鐘の響き」(ペルナンブーコ)だったが、文句なしで合格!という人は本当に少なかった。
この曲は特に版によって音符やリズムが違っているので、読譜ミスで減点になった人が非常に多く残念だった。この点については審査前に1時間近く話し合いをして、音やリズムの譜読み違いについての評価をどうするか取り決めた。
意見は分かれたが、結局「アマチュアだからこそ謙虚に楽譜を読んで欲しい」というメッセージも兼ねて1点減点とすることになった。
6名の審査員が5点で採点し、30点満点。今回は合計で合格ラインが18点、不合格ラインが17点だったので、審査員全員が3点を付けた場合には合格している。
つまり、読譜ミスだけの理由で不合格になった人はいないことを強調しておきたい。
不合格者には審査員からのコメントが届いている筈だが、減点となっても合格した人には特にコメントがないので、他のコンクールの機会などあればまた改めて指定版を見直す必要があるだろう。
また、今回のようにCDは必ずしも楽譜通り弾いているとは限らず、コンクールの場合は指定の楽譜遵守なのだが、自信がない人は協会に問い合わせて頂きたい。
最終予選課題曲のド・ヴィゼー「ブーレ、ジーグ」は意外と難しい曲で、出だしからつまずく人が少なくなかった。
緊張で右手がコントロールできていない人も多かったと思う。
気になったのは、ブーレのテンポの割にジーグが遅過ぎるパターンだ。
どちらも速めの舞曲だが、ブーレは良いテンポで弾いているのにジーグをゆったりしている人が少なくなかったのは、技術的に速く弾けないというよりそのテンポをイメージしていたのではないだろうか。
今回の指定版では4分の3となっているが、本来8分の6とされて良い軽快さが必要とされる(この作品のオリジナルはタブラチュアなので、解釈次第で拍子記号も異なる)。
どちらにしても、1小節を1つでカウントする軽快さが欲しかった。
読譜ミスは、ブーレでは小節10の4拍目低音シのフラットが抜けているパターンが数人に見受けられた。
その他についてはできるだけ参加者各自へのコメントに書いたが、リピートなしだったので読譜ミスなのか単なる間違いなのか、審査員としても判断が付かない場合があった。
今回は時間にも余裕があったので、個人的には前半だけでもリピートありにすれば参加者ももう少し弾きやすかったのではないかと思う。
採点は5点満点で審査員7名分の合計を出す方法で、25点以上の10名が合格となった。
例年より最低点が低かったところに、今回の課題曲の難易度が現れているだろう。ちなみに、惜しかったのは24点の金井秀治、23点の井上和也と神辺憲穂(カンベケンポ)、22点の野原富男と前田真悟だったことをご報告したい(以上50音順)。
<本選>
自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)
本選出場者発表前に前回優勝者・松山古源がゲスト演奏を行った。以下、10名のレポートを演奏順に記す。
小林和重(千葉):スペインのフォリアによる変奏曲(ジュリアーニ)
緊張のためか、前半で度忘れがあり、弾き直しやミスが多くて残念だったが、後半は調子が出てきて最後を盛り上げて締めくくった。しっかり弾けているだけに惜しいので、ミスをしても曲の流れを止めないようにできればと思う。
矢崎理江(山梨):ヘンデルの主題による変奏曲(ジュリアーニ)
とても丁寧でごまかさずに弾いているのは好感が持てるのだが、かなり遅めのテンポ。変奏曲は終わりに向けて盛り上がるように作られているので、その高揚感が欲しかった。また、ヘンデルの主題(調子の良い鍛冶屋)はアリアなので、もっとメロディーを歌えれば良くなるだろう。
大野恒裕(北海道):大聖堂 第2、第3楽章(バリオス)
調弦がもう一歩だった。丁寧だが2楽章はもう少し歌いたい。3楽章はとても確実な演奏で細部まできちんと弾いていた。度忘れや弾き直しがあったのが惜しく、やはりミスをしても弾き直さない習慣を付けて欲しい。
山内文夫(千葉):コルドバ(アルベニス)
昨年度第2位。意外と弾きにくい曲で傷も少なくなかったが、美しく歌っていた。低音メロディーのところは高音の伴奏を少し抑えたい。もう少しテンポを遅めにしても良かったと思う。圧倒的多数で特別賞となった。<特別賞>
永井達哉(神奈川):ハイパー大尉のガリアルド、ファンタジー(ダウランド)
音のバランスが良く、美しく響いていた。ガリアルドは時々拍子感が崩れるのが気になったが、ファンタジーはとても良かった。コンクールとしてはダウランド2曲ではなく、違うタイプの曲を聴きたいという声が多かった。<次席>
新井広恵(宮城):12月の太陽(レイ・ゲーラ)
きれいな音でメロディーを際立たせていた。繰り返しが多い曲なので、同じフレーズを飽きさせずに聴かせる工夫と、メリハリを付ける表現力が欲しい。調弦の音が大き過ぎるのが気になったので、小さくスマートにしたい。
古本勝利(東京):アラビア風奇想曲(タレガ)
柔らかく太い音。前半はフレットを外すミスが多かったのが惜しい。後半は良くなったが、細かい部分は急がず丁寧に弾きたい。音楽の流れは良いので、ビブラートなどをうまく使うと更に良くなると思う。
西村拓也(神奈川)エチュード第1番(レゴンディ)、華麗な舞曲(タンスマン)
きれいな音でレゴンディを美しく聴かせるが、メロディーに対し低音の響きが少し物足りない。タンスマンは調弦がもう一歩だった。少し雑なところもあるが、若さあふれる演奏で勢いがあって良かった。<第3位>
佐々木宣博(東京):ソナタ・ロマンティカ〜第1楽章(ポンセ)
昨年度特別賞、一昨年度 第3位の常連。バランス良く和音の響きを丁寧に聴かせてよく歌う。弾き飛ばし気味だった昨年に比べ格段に良い大人の演奏だった。音量や音色の表現の幅が広がれば更に良くなるだろう。<第2位>
松本きよし樹佳(北海道):最後のトレモロ(バリオス)、ディアハンターのテーマ(マイヤーズ)
最終予選1位通過。バリオスは前奏との速さの違いが気になったが、トレモロが非常に美しい。マイヤーズは多少の傷もあったが思い入れたっぷりにメロディーを歌い、ギターをよく響かせていた。<第1位>
<総評>
今回は、審査員7人中4人が1位を付けた松本さんが優勝となった。(本選は6点満点で、1位〜6位にそれぞれ6〜1点を付けて合計する採点方法。)北海道の優勝者は初めて。他には、佐々木さんに2名、西村さんに1名が1位を付けていた。総合では松本さんが36点、佐々木さんと西村さんが32点で同点となり、決選投票で2位は佐々木さん、3位が西村さんに決まった。次席の永井さん(20点)も好評だったが、同じ作曲家2曲というプログラミングと、曲の難易度で上位3名に点数で差を付けられたと思う。
全体的に、とてもレベルの高い本選会で、審査員もかなり悩みながら点数を付けなければならなかった。特に課題曲のないコンクールでは、どこにポイントを置いて審査するかで順位が簡単に入れ替わってしまうので本当に難しい。
また、審査員は予選も本選も2Fで聴いていたが、1Fと2Fでは響きが違うのではないかという指摘もあり、本選だけでも1Fで聴くべきか、これから議論されることになりそうだ。
来年度は8月24日(土)に決定した。第1次予選(テープ審査)課題曲は毎年同じで、「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ(作者不詳)」。第2次予選(テープ審査)が「タンゴOp.19-3(フェレール)」(古い版ではOp.50-3と表記されているので注意)、最終予選(公開審査)が「愛のワルツ(ノイマン)」、(第1・2次予選:現代ギター社版「発表会用ギター名曲集を、最終予選:「名曲てんこもりBOOK1」または「帰ってきたてんこもり1&2」を使用、リピートは省略、D.S.は付けること」となっている。
初挑戦の方も再挑戦の方も、こぞって多くの参加を期待したい。
13program
最終予選出場順抽選会
賞品の一部
開会挨拶:全日本ギター協会代表 志田英利子
開会ギター無料クリニック
ゲスト演奏:松山古源さん(第12回全日本アマチュアギターコンクール優勝者)
本選出場順抽選会
入選 小林和重さん
入選 矢﨑理江さん
入選 大野恒裕さん
特別賞 山内文夫さん
次席 永井達哉さん
入選 新井広恵さん
入選 古本勝利さん
第3位 西村拓也さん
第2位 佐々木宣博さん
第1位 松本樹佳さん
司会:伊藤 成
ゲスト演奏者インタビュー
本選出場者インタビュー
審査員[左より50音順]石田忠、佐藤弘和、志田英利子、鈴木大介、坪川真理子、中島晴美、堀江志磨
表彰式 ゲスト審査員 鈴木大介氏より表彰状等授与
講評 :審査員代表 石田 忠
集合写真 本選出場者〔前列〕および審査員〔後列〕