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●コンクールレポート●
「第14回全日本アマチュアギターコンクール」
主催:全日本ギター協会
レポート:審査員 坪川真理子

2013年8月24日(土)、三鷹市文化センター・風のホールにて、第14回全日本アマチュアギターコンクールが開催されました。
以下は、審査員の1人、坪川真理子の個人的レポートである事をご了承下さい。

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 今年の応募者総数は91名。第1次(テープ)予選は全員が合格となり、第2次(テープ)予選にも全員が参加して、50名が最終予選に進み(棄権なし)、そのうち10名が本選に駒を進めた。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田忠、佐藤弘和(作曲家・ギタリスト)、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト大萩康司(ギタリスト)の7名。

<最終予選>
課題曲:愛のワルツ(ノイマン)/現代ギター社版「てんこもり1」または「帰ってきたてんこもり1&2」指定(リピートもD.C.も省略)。

 まず、6月上旬に行われたテープの第2次予選は、「タンゴOp.19-3(フェレール)」で「リピートなし、D.C.(ダ・カーポ)あり」だったが、残念ながらD.C.なしで録音してしまい失格となった人が2名いた。また、再生不可能のMDが1枚あったのも残念だった(デッキとポータブルの2台で試したが「Blanc disc」と表示された)。CDやMDは普通のデッキで再生できることが条件になっているので、注意が必要だ。全体的には、3連符のリズムがすべって速くなるパターンが多かったのと、特に和音での読譜ミス(減点)も少なくなかった。

 最終予選課題曲の「愛のワルツ」は、表現力がとても大切なポイントになったと思う。技術的に弾けているかどうかはもちろん重要な基礎点となるが、技術的にはパーフェクトに近くても、あまりにもインテンポで無表情な演奏は合格点に達しなかった。メロディーを美しく歌うために、ベース音(低音)以外の伴奏を抑えるのもポイントになったが、逆に抑え過ぎてほとんど聴こえないパターンも意外と多かった。また、最後の段落のアルペジオ部分は右手のコントロールが難し く、メロディーと伴奏をうまく弾き分けられた人が意外と少なかったため、合格点を付ける目安になったと言える。
 
 採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、今回は26点以上でちょうど10名が合格となった。ちなみに、25点は越智栄輔、蔦尾和廣、舟波昭一、森本晃吏、山岸協慈、24点が佐久間稔治、永井達哉、前田真悟、山口恵一郎で、今回はもう一歩の人がとても多かった(以上50音順)。

<本選>
 自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)

 本選出場者発表前に昨年度優勝者の松本樹佳(きよし)がゲスト演奏し、インタビューなども行われた。以下、10名のレポートを演奏順に記す。「 」は他の審査員のコメントをまとめた。

 青木一彦(東京):劇的幻想曲「ル・デパル」(コスト)
 きれいな音だが、調弦がもう一歩なのが惜しかった。細かいパッセージもごまかさず、丁寧に弾いていて好印象。高音に対しp指の音がぼやけ気味で、爪を使っていないような響きに聴こえた。「ダイナミックレンジが狭いので、曲全体を大きく捉えて音楽を作れれば更に良くなるだろう。」

 松田悠真(埼玉):糸を紡ぐ娘(カタルーニャ民謡〜リョベート編)、幻想的ポロネーズ(アルカス)
 クリアな音。下降スラーがはっきりしないなど少し雑なところもあるが、軽やかな演奏。「ポロネーズのリズムがもう一歩だったのが惜しい。」「十分なテクニックがあるので、もっと歌って欲しい。」

 須藤尚之(北海道):シャーウッドの森(須藤尚之)<特別賞>
 自作曲。音が細めで、細かい音がはっきり聴こえないのが残念だった。「ヨーク味のコユンババ風味のような」ギタリスティックな面白い曲で、独自の世界を披露したのが「特別賞」として評価された。

 田吹秀一(千葉):魔笛の主題による変奏曲(ソル)<第1位>
 最終予選1位通過。音色の変化やビブラートを効果的に使った音楽的な演奏で、予選から印象に残っていた。1音1音丁寧だが、逆にもう少し軽さが欲しい部分もある。細かい傷もあったが、決めどころを決めて、ダントツの優勝となった。

 清田和明(千葉):ソナチネ第2番〜第1、第3楽章(佐藤弘和)
 美音で音量が大きいのだが、音響の良いホールではボワボワと鳴り過ぎて聴き取りにくくなってしまった。ギターとホールの相性もあるかもしれないが、全体的に盛り上がりっぱなしで頑張り過ぎなので、もっと力を抜く部分を作れれば良くなるだろう。「よく弾けているが、表現が確立していないのが惜しい。」

 村上正彦(宮城):マジョルカ(アルベニス)<次席>
 ミスはあったが、流れを止めずにゆったり丁寧に歌う。P指の低音がこもり気味で響きが足りないのが残念だったが、メロディーと伴奏の弾き分けがよくできていて音楽的。「ダイナミックレンジも良く、味のある演奏だった。」

 伏見晃司(東京):BWV1000〜フーガ(バッハ)
 最終予選2位通過。速めのテンポで始まったが、途中で失速したのと、止まりそうなミスがいくつかあったのが惜しかった。「弾き飛ばす印象になってしまったのが残念。」テクニックはあるので、フーガの構造を研究し、もっとフレージングを意識できれば良くなるだろう。
 
 東條 巖(東京):アストゥリアス(アルベニス)<第2位>
 クリアな音。細かいところがもう一歩で惜しいが、こだわりを感じさせる演奏で、歯切れが良い。「前向きなエキサイティングな演奏で好感が持てる。」ミスが少なくなかったが、聴かせどころを聴かせて評価された。

 松原弥生(長野):ワルツ第4番(バリオス)<第3位>
 低音をたっぷり歌い、落ち着いた丁寧な演奏。細かいところまで確実に練習している印象を受けた。「舞曲の躍動感がもう少し欲しかった。」細かい弾き直しや、最後のミスがなければもっと上位に入っただろう。

 森山 隆(神奈川):BWV1002〜ブーレ、ドゥーブル(バッハ)
 第2次(テープ)予選1位通過。少しこもり気味だが柔らかい音。弾き直しがあったのと、スラーがはっきりしないのが惜しかったが、とても誠実な演奏。「ブーレの舞曲感がもう一歩だった。」


<総評>
 課題曲がない本選はいつも審査に悩むが、今回は今まででも特に難しかった。そんな中で、田吹さんは審査員7名中5名が1位、2名が2位を付けてダントツのトップとなった。最終予選と本選を通じてどちらも1位というのは、一昨年の松山さんに次ぐ快挙だ。2位以下は票が本当に割れて、東條さんには1位を付けた審査員もいれば、6位にも入れなかった審査員もいたというバラつき具合で、1点も入らなかった出場者は1人もいなかった。(本選の採点は6点満点で、1位〜6位にそれぞれ6〜1点を付けて合計する方法。7位以下は0点。)
 このコンクールは若手に厳しい傾向があるが、それはどうしても若手がテクニックを偏重しがちだからだ。今回は特に、若手(20代〜30代前半)の、テクニックはあるが平坦な演奏(総じてダイナミックレンジが狭く、音色の変化も少ない)と、ベテラン組(50代〜70代)の、ミスはあるが心に響く音色と音楽的な演奏の差が顕著に現れ、1位〜3位は全員ベテラン組となった。(本選は、他に40代も2人いた。)
 若手の音もきれいなのだが言わばデジタルの音で、変化がないのでずっと聴いていると飽きる。一方、ベテラン組の音はまさにレコードの音。すべてが美音という訳ではないのだが、ここぞというところでppやビブラートを使って審査員をうならせる音を聴かせた。
 とは言え、若手でも技術・音楽共にダントツであれば必ず優勝できる(過去の最年少優勝者は21歳。)。テクニカルな現代のギタリストだけでなく、伝説の巨匠たちの歴史的録音もたまには聴いて、「ギターならでは」の音や演奏を研究してみて欲しい。

 来年は、毎年同じ第1次予選(テープ審査)課題曲が「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ(作者不詳)」。第2次予選(テープ審査)が「ギャロップ(ソル)」(いずれも現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用し、2次予選については、くり返しは省略、D.C.は付けること)。最終予選(公開審査)が「素朴な歌」(佐藤弘和)」(現代ギター社版「佐藤弘和ギター作品集『秋のソナチネ』」使用、8小節目のリピートのみ行い、1カッコは弾かずに2カッコに進むこと)となっている。来年も是非、また多くの方々に参加して頂きたい。



集合写真 本選出場者〔前1.2列〕および審査員〔3列〕

     
第1位:田吹秀一(千葉)  第2位:東條巖(東京)  第3位:松原弥生(長野) 
   
  ゲスト演奏:松本樹佳
(第13回全日本アマチュアギター
コンクール優勝者)
 特別賞:須藤尚之(北海道)  次席:村上正彦(宮城)
     
入選:松田悠真(埼玉)  入選:森山隆(神奈川)  入選:清田和明(千葉) 
     
入選:青木一彦(東京)  入選:伏見晃司(東京)  司会:伊藤成 
     
 開会挨拶:全日本ギター協会
代表 志田英利子
 講評:ゲスト審査員 大萩康司  総評:審査員代表 石田忠
     
 ギター無料クリニック:ギター製作家 込山修一  賞品の一部  ワンコイン懇親会