●コンクールレポート● |
2014年8月23日(土)、第15回全日本アマチュアギターコンクールが例年通り三鷹市文化センター・風のホールで開催されました。
以下は、審査員の1人、坪川真理子の個人的レポートである事をご了承下さい。
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今回は申込者99名で史上最多記録更新となったが、テープ予選の提出は98名、そのうち合格者が50名。最終予選は2名が欠場して48名で競われ、10名が本選に進んだ。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田忠、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、佐藤弘和(作曲家・ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト松尾俊介(ギタリスト)の7名。
<最終予選>
課題曲:素朴な歌(佐藤弘和)/現代ギター社版「「佐藤弘和ギター作品集『秋のソナチネ』」使用」指定
まず、6月上旬に行われた第2次予選テープ審査課題曲は「ギャロップ」(ソル)(現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用し、くり返しは省略、D.C.は付けること)だったが、意外と満点の演奏が少なかった。この曲はギャロップ(馬の駆け足)らしく、一定のテンポで普通に弾けば良いのだが、不自然にテンポを崩して歌おうとしたり、遅過ぎたりという、「曲のイメージ違い」の演奏が予想外に多かった。技術的な審査ポイントとしては、やはりスラーが明瞭に弾けているかどうか、複音や和音のすべての音がきちんと出ているかどうか、というところだったと思う。ゲストを除く6名の審査員が5点満点で採点し、合計30点満点。今回は合格ラインが19点だったので、審査員全員が3点を付けた場合には合格している。読譜ミスについては1点減点と決まっているが、その減点だけで不合格になった人はいないのだ。不合格者に送られる審査員からのコメントには、読譜ミス以外のことも書かれている筈なので、そちらを参考にして頂きたい。
最終予選課題曲の佐藤弘和「素朴な歌」は、とにかくメロディーを歌って欲しい曲で、アマチュアならではのコテコテの演奏を期待していたのだが、意外とサラッと弾く人が多かった。また、楽譜にmpからmfまでの指定しかない影響か、緊張からなのか、ダイナミクスレンジが狭くて全体的に音が小さい人が多い印象を受けた。後から聞いたところ、今回は審査員席がかなり前の方だったために弱音を多用した人もいたようだ。
テンポに関しては、歌えていれば多少遅めでも速めでも良かった(と作曲者の佐藤弘和委員ご本人も言われていた)のだが、中にはやはり不自然に遅いと感じる奏者もいた。
採点は5点満点で審査員7名分の合計を出す方法で、25点以上の10名が合格となった。昨年の課題曲、ノイマンの「愛のワルツ」と同じく、技術的には問題なくても音楽的に無表情過ぎて合格点に達しなかった人もいた。ちなみに、僅差で不合格となったのは24点の蔦尾和廣、古本勝利の2人で、23点が林直樹、伏見晃司、藤崎哲郎、増田誠一郎、村上正彦の5人だった(以上50音順)。そして、佐藤弘和委員が独断で決めた「素朴な賞」に村上正彦が選ばれ、サイン入り楽譜が贈られた。
<本選>
自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)
本選出場者発表前に前回優勝者・田吹秀一がゲスト演奏を行った。以下、10名のレポートを演奏順に記す。「 」は他の審査員のコメントをまとめた。
森本晃吏(神奈川):大聖堂第1、第3楽章(バリオス)
1楽章は線が細いが綺麗な音で、弱音を効果的に使っていた。3楽章は完成度がもう一歩で、ミスが多かったのが残念だった。「音楽は流れているのに弾き直しが惜しい。」間違えても弾き直しをしない習慣を付けて欲しいと思う。
泉 慎一(神奈川):カヴァティーナ(マイヤーズ)、オーバー・ザ・レインボー(アーレン/武満徹編)
綺麗な音で「全体的によく歌っているのだが、メロディーがもう一歩繋がらない(時々出ない音がある)のが惜しい」。2曲とも似た系統の曲だったので、できればもう少し速めの曲との組み合わせで聴きたかった。<特別賞>
ティムソン・ジョウナス(埼玉):カヴァティーナ組曲〜プレリュード、バルカローレ、スケルティーノ(タンスマン)
細部は少し雑だが、和声感が良い。「構成力がしっかりしている」。バルカローレでは和音に読譜ミスがあったようだ。スケルツィーノはミスをして慌てたのか、その後乱れてしまったのが残念だった。
佐々木宣博(のぶひろ)(東京):不安(メルツ)、ソナタK.208(スカルラッティ)
昨年度第2位。細部まではっきり発音していて、音量も音質も抜群だった。ダイナミックレンジも広い。予選は淡白な演奏で少し物足りなかったが、丁寧で音楽的。「よく歌わせているが、惜しいミスが散見された」。<第2位>
野原富男(埼玉):魔笛の主題による変奏曲(ソル)
クリアな音だが、低音が物足りない。右手と左手のタイミングが合っていない印象で、難所が決められないのが残念だった。「全体的にリズム感は良いのに、少し細かい音の仕上げが甘い」。少し急ぎ気味に聴こえたが、後半は良くなった。
前田真悟(千葉):組曲イ短調〜ガボット、ジーグ(ポンセ)
調弦がもう一歩だったが、音はクリア。曲が少し難し過ぎる印象。緊張のためか度忘れが多かったが、止まらず弾ききったのは良かった。「姿勢が良くてリズムも軽いのに、タッチが甘くなったのが惜しい」。
國吉利典(埼玉):組曲イ短調〜サラバンド(ポンセ)、プレリュード第2番(タレガ)
柔らかい音で、ポンセは各声部を意識できた演奏。タレガは時々メロディーのアポヤンドらしい音が飛び出してしまい、「点と点が繋がらない印象を受けた」。「全体的によく歌って音楽が流れている」。<次席>
竹田絵美(東京)スペインのフォリアによる変奏とメヌエット(ソル)
最終予選では審査員全員が満点の1位通過。線は細いがバランス良くクリアな音。3度の移動などはもう少し脱力して裏拍は軽く弾きたい。「安定感はあるがもっと表現に幅が欲しい」。上位を狙える力を持っていると思う。
越智栄輔(神奈川):プレリュードニ短調、パッサカリア(ヴァイス)
柔らかい音で、重厚な低音が心地良い。細かいミスはあったがとても丁寧な演奏で、本選の舞台の響きを楽しんでいるように感じられた。「ダイナミクスレンジは狭いが、音楽が流れている」。「アマチュアリズム満載!」<第3位>
須藤尚之(北海道):ロンド作品2-2(アグアド)
昨年度特別賞。細めだがきれいな音。急にテンポが速くなるところはあるが、指はまわっている。昨年と比べ、格段とテクニックが上がっていて驚かされた。「ダイナミクスレンジが狭いので、もう少し音楽を表現して欲しい」。<第1位>
<総評>
今回は、20代2人、30代3人、40代2人、50代1人、60代2人・・・とバランスは良かったが、例年に比べると平均年齢が若い本選会だった。そんな中で、昨年は自作曲で印象を残した20代の須藤さんが、今年はテクニックで差を付けて優勝した。他には、佐々木さん、國吉さん、越智さんにも1位を付た審査員がいたが、合計点ですんなり順位が決まった。(本選は6点満点で、1位〜6位にそれぞれ6〜1点を付けて合計する採点方法。)ちなみに、5位以下は順位を付けず、特別賞は印象に残った人という観点で選んでいる。
入賞に至らなかった人は、難曲過ぎたり、少し地味過ぎたり・・・と選曲が違えば上位を狙えたのではないかと思う人が多かった。また、毎年チャレンジされる常連さんが多いにも関わらず、本選会の顔ぶれがほとんど入れ替わるのはこのコンクールの面白いところだと思う。
来年度は、第1次予選(テープ審査)課題曲が「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ(作者不詳)」。第2次予選(テープ審査)が「メヌエット・ハ長調〜ソナタOp.25より」(ソル)(繰り返しもD.C.も省略)、最終予選(公開審査)が「ワルツ・ニ長調(ターレガ)」(繰り返しを省略(1カッコは弾かず2カッコに進む))、(それぞれ現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」「ソルギター曲集」「ターレガギター曲集」のいずれかを使用)となっている。
是非また、大勢の方々の参加を期待したい。
入賞者〔前列〕、入選者〔中列〕および審査員〔後列〕
第1位:須藤尚之(北海道) | 第2位:佐々木宣博(東京) | 第3位:越智栄輔(神奈川) |
特別賞:泉 慎一(神奈川) | 次席:國吉利典(埼玉) | 入選:森本晃吏(神奈川) |
入選:ティムソン ジョウナス(埼玉) | 入選:野原富男(埼玉) | 入選:前田真悟(千葉) |
入選:竹田絵美(東京) | 素朴な賞:村上正彦(宮城) | ゲスト演奏:田吹秀一(第14回全日本アマチュアギターコンクール優勝者) |
開会挨拶:全日本ギター協会 会長 志田英利子 | 講評:ゲスト審査員 松尾俊介 | 総評:審査員代表 石田 忠 |
賞品の一部 | ギター無料クリニック:ギター製作家 込山修一 | ワンコイン懇親会 |