コンクールレポート
「第19回全日本アマチュアギターコンクール」
レポート:審査員 坪川真理子
主催:全日本ギター協会
2018年8月18日(土)、第19回全日本アマチュアギターコンクールが例年通り三鷹市文化センター・風のホールで催されました。
今回は、応募者89名から第2次(録音)審査に合格した49名中1名の辞退が予めあった。プログラムに載った48名全員(昨年に引き続き、棄権ゼロ)で最終予選が競われ、その中から11名が選ばれた。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田忠、井上仁一郎、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト渋谷環(ギタリスト)の7名。
<第2次予選>
課題曲:タンゴOp.19-1(フェレール)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定
6月に行われた録音審査のタンゴは、まず正確なリズムで弾けているかどうかがポイントになったと思う。3連符が苦手な人はかなり多く、特に独学の人には正しく弾けているかどうかの判断が自分だけでは難しかったのではないだろうか。普通の3連符は大丈夫でも、装飾付き3連符や、3連符の最初が高音、続く2つが低音というパターンでリズムが崩れる人も多かった。読譜ミス(音ミス、リズムミス)での減点も散見されたが、他が完璧であれば1箇所間違った程度なら合格している筈だ。毎年90名前後、多い時は100名近くの応募があり、録音審査で半分近くが落とされる訳なので、倍率としては日本一高いコンクールではないだろうか。毎回、録音審査で消えてしまう実力者や本選の常連は決して少なくないのだ。そういう方々にとって課題曲は難しくない筈だが、甘く見ず力を入れて頂きたいと思う。
<最終予選>
課題曲:アメリアの遺言(リョベート)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定
最終予選の「アメリアの遺言」については、メロディーと伴奏を弾き分けてどれだけ歌えるかということと、緊張に影響されやすいオクターブハーモニックスが最大のポイントだったと思う。このハーモニックスだけでも完璧に弾けた人は数人しかいなかった。そして、技術的には弾けているがフレージングや楽譜のラレンタンドなども感じられず、音楽的な面で点数が伸びなかった人もいた。今回は音ミス(読譜ミス)か単なる弾きミスか判断が難しいものも多く、逆にその点での減点は少なかったと思う。小節5の2拍目の和音で失敗率が高かったのは充分理解できるのだが、何故か2小節目の頭で行き過ぎてしまうという不注意ミスも少なくなかった。ポジションマークを嫌う先生もいるが、本番では椅子や足台の高さが微妙に合わなかったりすると左手の感覚が狂うこともあるので、私は7フレットだけは付けるようにお勧めしている。今年も、「5点満点の5」(文句なしで合格)を付けられた人は非常に少なかった。
採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、今年は28点以上の11名が本選に進んだ。ボーダーラインの27点は野中久仁子、松田悠真の2名。更に、26点は松岡茂樹、25点は西川知ひこ、前田真悟で数点及ばなかった(以上50音順)。
<本選>
自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)
本選出場者発表前に昨年度優勝者・寺島光洋がゲスト演奏を行った。 以下、11名のレポートを演奏順に記す。「 」は他の審査員のコメントをまとめた。
杉本みどり(神奈川):ソナタK.391(スカルラッティ)、パッサカリア(ヴァイス)
一昨年3位。スカルラッティは線が細く、時々不明瞭になるのが惜しい。ヴァイスはバランスが良く、ミスはあったがセンスを感じた。プログラミングとしては、もう少し違うタイプの組み合わせが聴きたかった、という声が多かった。「表現の幅がもっと欲しい」「上品な演奏だった」
園城寺哲男(茨城):無伴奏チェロ組曲第3番~プレリュード、クーラント(バッハ)
柔らかく太い音だが、こもり気味。右手がずっと指板寄りなのでもう少しクリアに弾けると良いと思う。度忘れがあったのが惜しかった。余裕のない部分もあったが、音楽的な演奏だった。「バッハは暗譜が難しい」「クーラントのリズムをはっきりさせたい」「音を客観的に聴いて演奏している」
金居秀治(埼玉):スペイン・セレナーデ(マラッツ)、ロス・カウハリートス(フィゲレード)
メロディーをよく歌っている。全体的に少し平らな感じなので、もう少しダイナミックレンジを広げられると良くなるだろう。スペイン・セレナーデの最後の連続スラーは、運指を工夫すれば完成度が上がると思う。「カウハリートスはアクセントを工夫すると良いのでは」「2曲目の方がリズムに乗れていた」
山下淳治(静岡):朱色の塔(アルベニス)
冒頭は左手の押さえが正確でないところもあったが、右指がよくまわっている。メロディーと伴奏の弾き分けがよくできていた。最後で度忘れしたが、うまく乗り切れたのは良かった。「ダイナミクスが少し足りない」「もっと思い切って表現して欲しい」「拍子感がしっかりしている」
髙木薫(神奈川):魔笛の主題による変奏曲(ソル)
音は細めで、淡々と弾く印象。技術的にはかなり弾けているのだが、各変奏の変化が足りない。最終変奏は後半で失速するが、盛り上げて終わった。「基礎力は充分ある」「音色が単一なので、右手の弾く位置やタッチの向き、ビブラートなどで工夫して欲しい」「全体的には、2拍子の音楽がよく表現されていた」
山岸協慈(東京):「黒いデカメロン」より第2、第1楽章(ブローウェル)
音は硬めで、曲には合っているものの、親指の爪の雑音が気になった。少々弾き飛ばし気味のところもあるが、よく弾けていて、この曲の雰囲気が出せていた。「響きの余韻があって良かった」「曲想がよく練られていて惹き付けられる演奏」<第2位>
伊倉雅之(神奈川):ハンガリー幻想曲(メルツ)
音が美しい。速いフレーズもきちんと弾いていて好印象。低音がよく響くので、高音が負ける時もあった。後半で指がまわりきらない部分もあったが、ダイナミックレンジが広く曲全体をうまくまとめていた。久々の満場一致での優勝となった。「流れが自然で完成度が高い」「ダイナミックな演奏」<第1位>
山口直哉(千葉):「コンポステラ組曲」よりⅠ、Ⅳ(モンポウ)
最終予選1位通過。一昨年2位。綺麗な音で、出だしが本当に美しかった。どちらも途中で度忘れや弾き直しがあったのが惜しい。ダントツだった最終予選の曲に比べ、まだ手の内に入っていない印象だった。「音抜けが良く、よく響いていた」「音色の使い分けが欲しい」「雰囲気があって良い」
矢崎理江(山梨):魔笛の主題による変奏曲(ソル)
序奏付き。音は綺麗だが調弦がもう一歩だった。とても丁寧に弾いているのだが、テンポが遅く均一的でメトロノミックなのが残念。「各変奏の個性を出して欲しい」「丁寧で正確だが、エチュードのよう」「音がよく通り、明るくのびやかだった」
橋本一平(東京):愛の歌(メルツ)、タンゴ・アン・スカイ(ディアンス)
音は綺麗だが調弦が少し甘い。ディアンスはリズムに入りきらないパッセージもあったが、リズムを優先して欲しい。全体的にはなめらかで自然な演奏だった。「センスが良い」「速いパッセージがごまかし気味」「弱拍の表現が巧い」「流れが柔らかい」「<第3位>
渡部信一(神奈川):フリア・フロリダ(バリオス)、カンドンベ(プホール)
最年長。音は細めだが綺麗に響いている。バリオスは淡々と弾いているようで、かなり完成度が高い。プホールは変拍子に乗り切れないところもあったが、曲の組み合わせとしては良かった。「カンドンベはリズミカルな部分にもっとアクセントが欲しい」「誠実な演奏スタイル」<次席&特別賞>
<総評>
今回は伊倉さんがダントツの優勝となった。次席までは点差ですぐに決まったが、私が審査員に入った第8回以来、特別賞を決めるのに最も時間がかかったと思う。特別賞は順位に関わらず「印象に残った人」という観点で選んでいるが、今回は最年長であった渡部さんが次席とのダブル受賞ということになった。(他には園城寺さん、山下さん、高木さん、山口さん名前が挙がっていた。)そして、実は2位の山岸さん、3位の橋本さん、次席の渡部さんは3人とも最終予選が28点でギリギリ本選に残ったメンバーだったので、審査員にとっては面白い結果となった。
ここ数年、本選出場者の平均年齢が下がってきていたが、今年は30代1人、40代1人、50代2人、60代5人に70代1人という顔ぶれだった。半分が初めて本選に進んだというのもアマコンらしい。更に、今まではシニア=「音色と音楽で勝負」というイメージだったのが、この本選会は指がまわる出場者ばかりで、シニアのレベルが上がっていることに驚かされた。総じて技術は高く、最終的には暗譜と音楽で差が付いた印象だ。もちろん選曲も大切で、本選の常連になると「曲を変えなければ」という意識になるのか、新曲に挑戦したくなるのかは分からないが、前に弾いた曲でも全く構わない。ともかく「申し込み用紙に書いてから練習する」のではなく、得意曲でエントリーして欲しいと思う。
来年は、第1次予選(録音審査)課題曲が毎年同じ「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ、繰り返し省略(作者不詳)」。第2次予選(録音審査)が「練習曲Op31-3(ソル)」、最終予選(公開審査)が「エンデチャとオレムス(タレガ)~繰り返し省略」、(いずれも現代ギター社版「発表会用ギター名曲集を使用」となっている。是非また多くの方々に参加して頂きたい。
2018年第19回全日本アマチュアギターコンクール写真 (入選者の順番は演奏順となっています) | ||||
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
第1位:伊倉雅之(神奈川) | 第2位:山岸協慈(新潟) | 第3位:橋本一平(東京) | 次席・特別賞:渡部信一(神奈川) | 入選:杉本みどり(神奈川) |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
入選:園城寺哲男(茨城) | 入選:金居秀治(埼玉) | 入選:山下淳治(静岡) | 入選:髙木 薫(神奈川) | 入選:山口直哉(千葉) |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
入選:矢﨑理江(山梨) | ゲスト演奏:第18回全日本 アマチュアギターコンクール 優勝者 寺島光洋 |
開会挨拶:全日本ギター 協会会長 志田英利子 |
講評:審査員代表 石田 忠 | 司会:松本佳子 |
![]() |
![]() |
![]() |
||
表彰:ゲスト審査員 渋谷 環 | 入賞者・入選者・審査員 | 賞品 |