コンクールレポー
「第22回全日本アマチュアギターコンクール」
レポート:審査員 坪川真理子
主催:全日本ギター協会

 2021年8月21日(土)、第22回全日本アマチュアギターコンクールが、2年振りに三鷹市芸術文化センター・風のホールで催されました。

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今回は、コロナ禍で応募者64名から予め棄権が1名あり、第2次(録音)審査に合格した42名中、感染拡大と緊急事態宣言により7名の辞退があった。例年より少なめの35名で最終予選が競われ、その中から9名が本選に選ばれた。審査員は、全日本ギター協会より代表 志田英利子、委員 石田忠、宇高靖人、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト徳永真一郎(ギタリスト)の7名。


<第2次予選>
課題曲:水神の踊り(フェレール)~49ページ5段目「マズルカ」から50ページの7段目の最後「シ」のフェルマータまで/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定

 6月に行われた録音審査は、まず正確なリズムで、また一定のテンポで弾けているかどうかがポイントになったと思う。テンポが不安定な人や、どんどん速くなる人もいた。また、スラーがすべってリズムが崩れている人も少なくなかった。今回は、読譜ミス(音ミス、リズムミス)での減点はあまりなかったものの、和音や低音間違いが散見された。ゲスト以外の6人の審査員が5点満点で審査し、合計18点以上の42名が合格となった。感染対策に時間を取られる上、閉館も早いため、いつもの50名より少なくしなければならなかったのだが、応募人数が少なかったのと、合計18点というのは(平均で審査員1人につき3点ずつなので)、例年通りの合格ラインになったと思う。
 
 <最終予選>
課題曲:エストレリータ(ポンセ)~繰り返し省略/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集2」指定
最終予選については、リズムを刻む伴奏の上でいかにメロディーを歌うかというのがポイントだったと思う。技術的には、特に装飾音や5連符をなめらかに弾けるかどうかで差が付いたのではないだろうか。5連符はスラーをどう入れても、スラーなしで弾いてもOKだが、スラーなしでレガートに弾くのは逆に難しかったと思う。12小節目の3度の連続は、何故か急ぎ気味で失敗している人が多かった。元は歌の曲なので、実際にメロディーを歌ってみて、ブレスやフレージングを感じて欲しい。ミスはなくても、メトロノミック過ぎて、音楽的な部分で合格点に達しなかった人もいた。今年も、「5点満点の5」(文句なしで合格)を付けられた人は非常に少なかった。 
 採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、今年は27点以上の9名が本選に進んだ。ボーダーラインの26点は小川彰、松岡茂樹、森山隆の3名。25点はなし、24点は野原富男であと一歩だった(以上50音順)。

<本選>
 自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)

 本選出場者発表前に一昨年度優勝者・松田悠真がゲスト演奏を行った。 以下、9名のレポートを演奏順に記す。「 」は他の審査員のコメントをまとめた。

 山口直哉(千葉):椿姫の主題による幻想曲(アルカス~タレガ)
2016年度第2位。太くてよく響く音。度忘れや目立つミスはあったが、全体の流れは良かった。少し雑になってしまったが、エネルギッシュなエンディングだった。「ギターの鳴らし方が上手い」「強弱の幅が広い」
<次席>

 杉山 猛(たけし)(大阪):魔笛の主題による変奏曲(ソル
予選一位通過。音が細めで、低音が少し物足りない。細かいミスはあるが、技術的に安定していた。音質の変化を付けることと、最終変奏をもう少し盛り上げられれば、更に良いだろう。「各変奏のコントラストが欲しい」「テクニックがある」
<第2位>

 野本哲夫(埼玉):ワルツフランセーズOp.64(クレンジャンス)、ブエノスアイレスの夏(ピアソラ)
メロディーが少し細いが、低音をたっぷり聴かせた。アポヤンドはしっかり弾けるが、アルアイレになると細くなるようだ。どちらも曲の雰囲気をよく出せていたと思う。「ピアソラは、中間部をもっと歌い上げて欲しかった」「選曲が良い」
<第3位>

樋口優一(埼玉):コルドバ(アルベニス)
柔らかい音。低音が少しこもるが、高音のメロディーが美しい。速い部分は少し重くなってしまうのが惜しかった。曲全体を大きく捉え、計算し尽くされた演奏だった。「独自の世界観がある」「とてもよくコントロールされている」「音楽性を感じる奏者」
<辞退>

村松 淳(まこと)(山梨):「リュート組曲第4番BWV1006a」より プレリュード(バッハ)
 一音一音がクリアで、丁寧な演奏。度忘れがあり、少し焦ってしまったようだ。もう少しフレージングを意識できると、技術的にも弾きやすくなるのではないだろうか。「(暗譜が難しく、ミスが目立つ)バッハでなければ…」という声が多かったが、曲への思い入れを感じた。「声部は聴こえるが、歌い切れていない」「調和の取れたハーモニーが美しかった」

後藤眞次(神奈川):盗賊の歌(リョベート)、最後のトレモロ(バリオス)
  細めだがクリアな音。調弦が甘いのが非常に惜しかった。トレモロは粒が揃っていてスピードも充分なので、ブレスや抑揚を付けられれば更に良いだろう。「リョベートの歌い回しが良かった」「テクニックは安定感がある」

野中久仁子(千葉):アラビア風奇想曲(タレガ)
低音が少しこもり気味だが柔らかい音。爪なしのような音なので、うまく爪を当てられるともう少し響く音になると思う。全体的にとても丁寧で落ち着いた演奏だったが、逆にそれが守りに入っているような印象を与えたかもしれない。「音に響きが足りない」「速いところをもっと速く弾くとか、テヌートなど、ロマン派のスタイル感を出して欲しい」

山内文夫(千葉):大聖堂(バリオス)
2011年度、19年度第2位。杉山さんと同点で予選一位通過。各楽章に度忘れがあったのが惜しいが、遠達性のある美音。第1、第2楽章はもう少しビブラートが欲しい。第3楽章も目立つミスがあったが、1音1音クリアでごまかしのない、誠実な演奏だった。「上品な演奏」「ホールの響きをよく聴いている」
<特別賞>

山岸協慈(東京):「黒いデカメロン」より 恋する乙女のバラード(ブローウェル)
 2018年度第2位。2021年版(ブローウェルが新たにイントロを加えた版)が効果的だった。歌う部分とリズミカルな部分のコントラストがよく出せている。「もう少しダイナミックレンジが広いと更に良い」「2021年版という表記が欲しかった」「自分の世界を持っているベテラン」
<第1位>

<総評>
先に訂正発表した通り、本選会当日に第1位として表彰された樋口さんは、後日、学生時代のコンクール優勝歴が判明し、参加資格に抵触するため、ご本人と話し合いの結果、受賞を辞退されることとなった。受賞者は順に繰り上げとなったが、協会側の事前確認不足もあり、皆さまにご迷惑をおかけしたことを深くお詫びしたい。
山岸さんは、審査員7人中3人が1位を付けていて、もともとかなり高得点だったので、堂々の優勝者として胸を張って頂きたいと思う。他は票が割れたが、多くの審査員からバランス良く点が入った順に、杉山さん、野本さんとなった。
特別賞は順位に関わらず「印象に残った人」という観点で選んでいるが、今回はゲスト審査員の徳永氏の推薦で、「ホールでのギターの響きを一番よく聴いている印象だった」とのことで山内さんが選ばれた。 そして繰り上げで次席を決める際、実は山内さんと山口さんが同点だったのだが、山内さんは先に特別賞を受賞されていたため、山口さんに決まったことをご報告しておきたい。当コンクールでは、賞品の関係で1人ずつ順位付けしなくてはいけないため、同点の場合は通常なら決選投票で決めるのだが、今回は異例の対応となったことをご理解頂きたい。 個人的には、順位を付けるのが今までで一番難しかった。本選会では、各自1位から6位まで決めるのだが、今年はまず選外の3人を選ぶのに非常に苦労したのだ。そして、点数が入らなかった人(=誰も6位までに入れなかった人)が1人もいなかったというのは、かなり珍しいことだったと思う。
近年は、本選出場者の平均年齢が下がってきていたが、今年は201人、504人、604人という顔ぶれだった。過去の第2位受賞者が3人、それ以外の6人が初出場だったが、今まで何年も本選に進めなかった方々が、いきなり上位争いに加わるのも、何だかアマコンらしい。
来年は、第1次予選(録音審査)課題曲が毎年同じ「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ、繰り返し省略(作者不詳)」。第2次予選(録音審査)が「マリアルイサ(サグレラス)~D.C.なし」/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」、最終予選(公開審査)が「盗賊の歌(リョベート)」/「発表会用ギター名曲集2」となっている。今後は、募集要項を再考するなど、コンクールの趣旨(参加資格)の周知徹底をより一層図り、来年に備えることとなった。コロナが収束し、通常開催に戻ることを祈りつつ、皆さまのご参加をお待ちしたい。

<第1位 山岸協慈 受賞コメント>
近くにギター教室のない田舎に住んでいる私にとって、アマチュアギターコンクールは年に一度、素晴らしいホールで演奏できる発表会であり、また一度に複数の先生からレッスンを受けられる貴重な機会でもあります。今まで各先生から頂いた審査評価シートは宝物です。今年の審査評価でも「ベースの音程が低くなる時がある。」「音ムラが少々気になりました。」「低音の消音が少し不自然。」と具体的な改善点をいくつも指摘していただいたので、来年のゲスト演奏までに改善できるよう努力し、今年より少しでも良い演奏をしたいと思います。昨年、残念ながら中止になり、今回も中止になることを直前まで心配しておりました。開催の可否検討にはじまり、練習室、演奏順抽選、控室、ステージ、客席の感染対策とスムーズな進行の両立には大変なご苦労があったと思います。開催してくださった全日本ギター協会の先生方、スタッフの皆様には感謝しかありません。ありがとうございました。

         
第1位 _山岸協慈(新潟) 第2位 杉山猛(大阪)  第3位 野本哲夫(埼玉)  次席 _山口直哉(千葉)   特別賞 山内文夫(千葉)
         
 入選 後藤眞次(神奈川) 入選 村松淳(山梨)  入選 野中久仁子(千葉)  辞退 樋口優一(埼玉) ゲスト演奏:
第19回全日本アマチュア
ギターコンクール優勝者
  松田悠真
       
 開会挨拶
全日本ギター協会会長
 志田英利子
表彰挨拶:ゲスト審査員
徳永真一郎
講評:審査員代表
石田 忠
 司会:黒田公子
    
                      本選出場者と審査員  賞品