「第23回全日本アマチュアギターコンクール」 レポート:審査員 坪川真理子 2022年8月20日(土)、三鷹市芸術文化センター・風のホールにて、第23回全日本アマチュアギターコンクールが開催された。 今年の応募者総数は80名。1名辞退があり79名中、第1次(「禁じられた遊び」〜前半のみ)、2次の録音予選で45名が合格。当日はコロナ感染状況もあって3名のキャンセルが出て、42名が参加した。本選に進んだのは、9名。審査員は7名で、全日本ギター協会より会長 志田英利子、委員 石田忠、宇高靖人、坪川真理子、中島晴美(以上ギタリスト)、堀江志磨(ピアニスト)、ゲスト佐藤紀雄(ギタリスト)。 <第2次予選(録音審査)> 課題曲:マリア・ルイサ(サグレラス)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定、D.C.なし。 6月初旬の録音審査は、ゲスト以外の審査員6名で行われた。5点満点×6人の合計点で、19点以上の45人が合格となった。単純計算で6人中5人が3点、1人が4点を付けた人は合格した、ということになる。3点以下を付けた審査員はコメントを書いているので、コメント用紙の枚数で4点以上がもらえたかどうかが測れるだろう。 楽譜によってはアレグロと表記されているが、指定版はオリジナル通りマズルカとなっている。やたらと速く弾くことよりも、3拍子のリズムに乗ってメロディーと伴奏を弾き分けることがポイントになったと思う。 音ミス(読譜ミス)やリズムミスは1点減点と決まっているので、全員で確認し合いながら採点。ベース音のミス、小節の13と小節29を混同、小節15の低音を3つともシで弾いている、中間部の複音や和音を間違えているなどのパターンが散見された。また、テンポ感が不安定で減点になった人もいた。今回はD.C.なしの指定だったが、D.C.して失格になってしまった人がいたのは惜しかったと思う。 <最終予選> 課題曲:盗賊の歌(カタロニア民謡~リョベート)/現代ギター社版「発表用ギター名曲集2」指定。 最終予選は、 「技術的に弾けた上でいかに歌うか」がポイントになる課題曲を選ぶことが多い。つまり、技術的に弾けていても音楽的表現が足りないと、合格点には達しないということだ。今年は技術的な部分で引っかかる人が多く、例年より平均点が低めだった。それだけ一発本番の舞台では難しい曲なのだろう。また、ハーモニックス部分は、メロディーだけでなく伴奏音(複音部分)も含まれているのだが、これをメロディーと同じ扱いで弾いている人が少 なくなかった。他に、和音が変わる部分での消音や、小節5と小節8の違いを聴かせられているかどうかもポイントになったと思う。 音ミスは少なかったが、小節9の4拍目ファ♯を、(小節13と混同?)ソで弾いていた人や、逆に小節30の3拍目裏のソをファ♯にしている人が数人いた。また、三連符を倍速にしている人がかなり多いのは気になった。この三連符は歌のこぶしのようなものなので、1拍を正確に三ツ割にする必要はないと思うが、完全に倍速になっている人は、リズムを勘違いしているのではないだろうか。全体的なテンポは自由だが、余裕を持てる速さで弾かないとゆったり聴こえないものだ。元は歌の曲なので、実際にメロディーを歌いながら弾いてみると、フレーズやブレスがつかみやすいだろう。 採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、今回は26点以上の9名が合格となった。例年の10名ではなく9名になったのは、ボーダーラインが5名もいたためだ。その25点だったのは、河原稔、蔦尾和廣、廣島瑞穂、森山隆、渡辺綾子。24点が首藤智生、鶴岡善丈の2人だった(以上50音順)。 <本選> 自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。) 本選出場者発表前に昨年度優勝者の山岸協慈がゲスト演奏し、インタビューなども行われた。以下、10名のレポートを演奏順に記す。「 」には他の審査員のコメントをまとめた。 山内文夫(千葉):オートゥイユの夜会Op.23(コスト) 2016年、2019年第2位。一音一音がクリアで、弱音もよく通る美音。緊張のためか、目立つミスがあったのが残念だが、ごまかしのない誠実な演奏。ロマン派の自由で華やかな感じを出せれば更に良いと思う。「散漫にならないように頂点をはっきりさせるべき」「気持ちの込もった演奏」<第2位> (埼玉)「カヴァティーナ組曲」よりバルカローレ、ダンサ・ポンポーサ( タンスマン) 調弦が今一つだが、丁寧な演奏で難曲をよく弾いている。度忘れがあったのが惜しい。少し平坦に聴こえるので、ダイナミックレンジを広げられれば更に良くなるだろう。「バルカローレは8分の6拍子にリズム良くのって、魅力的な演奏」「表現力がある」 村松 (山梨) スケルツィーノ、ダンサ・ポンポーサ(タンスマン) 予選2位通過。粒がそろっていてきれいなトレモロ。度忘れもあったが、立ち直りが速く落ち着いた演奏。楽しんで弾いているのが感じられた。「テクニックがある」「もう少し自由度が欲しい」「安定している」<次席> 古田英生(神奈川)「埴生の宿」の主題による変奏曲(横尾幸弘) 調弦がもう一歩。音は細めだがクリアで、レコードの音を思わせる。度忘れがあったのが惜しい。複弦トレモロをきれいに聴かせ、最後は盛り上げて終わった。「全体的な歌いっぷりが気持ち良い」「響きが美しくのびやか」<第3位> 山口直哉(千葉):椿姫の主題による幻想曲(アルカス~タレガ編) 2016年第2位。太く柔らかい音でメロディーを歌う。冒頭のイントロ部分で思わぬミスをして動揺したのか、全体的に粗くなってしまったのが惜しい。度忘れもいくつかあったようだが、大きな流れは良かった。「ビリつきが多い」「p(ピアノ)の表現が良い」 佐々木(東京):美しき三羽の極楽鳥(ラヴェル)、「内なる想い」より 第4、第5楽章(アセンシオ) 予選1位通過。2012年、2014年第2位。低音のわりに高音が細めだが、きれいな音。ラヴェルは自然な流れで美しい。アセンシオは細部が不明瞭なところもあったが、テクニックを見せてダントツの優勝となった。「曲想の変化がもっと欲しい」「美しかった」<第1位> 阿部伸(神奈川):マジョルカ(アルベニス) 調弦がもう一歩。中間部で度忘れ(音ミス?)があったのが惜しいが、テンポよく弾けている。少し重いので、1小節を2拍で捉えられると同じ速さでも軽快になると思う。「歌の中でのダイナミックレンジが欲しい」「緩急や抑揚が付くと更に良い」 田口昌義(埼玉):入り江のざわめき(アルベニス)、エチュードNo.1(ヴ ィラ=ロボス) 音が小さく、調弦と演奏スタートの境目が分かりにくかった。p指は爪なしのような音で、こもり気味だが、雰囲気のある演奏だった。「細かい部分が不明瞭なのが惜しい」「ゆっくりの部分の気配りが良い」 野中久仁子(千葉):商人の娘(カタロニア民謡~リョベート)、歌と踊りNo.1(ピポー)クリアなハーモニックスと、太いメロディーを聴かせる。踊りは指がまわりきらないところや少し雑な部分もあったが、(緊張で度忘れが多かった男性陣に比べ)のびのびと弾いていた印象だった。「伝わるものがある」「速い部分をキメていれば3位に入れたのでは」「安定感のある演奏」<次席> <総評> 本選の採点は6点満点で、1位〜6位にそれぞれ6〜1点を付けて合計する方法 。7位以下は0点。) 佐々木さんは、審査員7人中5人が1位を付けて文句なしの優勝だった。2010年に初出場で3位入賞して以来、2位を2回、特別賞も受賞しているが、録音審査で落ちたことも何度かあるそうで、ようやくリベンジを果たしたという印象だ。山内さんは、何と3度目の2位。3回も2位を獲れるということは、実力の証明でもあると思う。古田さんは9回目の挑戦にして本選初出場で、見事な3位。 4位が同点だったため、最初はどちらかを次席、どちらかを特別賞にと議論していたが、「特別賞に賞品を1つ足せば、次席を2つ出せる!」ということが判明し、初めて特別賞なしで次席2名となった。お二人とも昨年初めて本選出場を果たし、今回が初入賞。ちなみに村松さんは昨年が7回目、野中さんは昨年が15回目の挑戦だったとのこと。 今年も審査が難しく、とにかく票が割れた。本選出場者全員に審査員2人以上が点を入れた(=6位までの順位を付けた)のは、初めてだったのではないだろうか。その中で、満遍なく票を集められた人が入賞という結果になった。今回は40代1人、50代1人、60代7人。佐々木さんの40歳から最年長の69歳まで、例年より幅が狭かった。 実は最近、「最終予選でミスをしても、常連はいつも本選に残る。毎年同じような人が本選に進んで、他の人が入る余地がない」というような意見を頂いたそうだ。確かに、アマコンは他のコンクールに比べミスに寛容な傾向にはあるだろう。しかし、多少のミスより大事な審査ポイント(メロディーと伴奏の弾き分け、消音、ブレスやフレーズのなめらかさなど)もある。目立たないかもしれないので、参加者はどうしてもミスばかりにとらわれがちなのだろうと思う。それに、実際には本選参加者の半分くらいは常連でも、初出場も半分程度いる年がほとんどなのだ(今年は2回目以上が5人、初出場が4人)。とはいえ、「なかなか入賞できない人に賞をあげたい」というアマコンの理念に反しているのではないか、という審査員もいるので、今後の委員会の議題となりそうだ。 来年は、毎年同じ第1次予選(テープ審査)課題曲が「愛のロマンス(禁じられた遊び)〜前半のみ、繰り返し省略(作者不詳)」。第2次予選(録音審査)が「カンタービレOp.31-10(ソル)」(現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用)、最終予選(公開審査)は「ラグリマ」(タレガ)(リピート省略、D.C.あり。ギタルラ社版「新ギター教本」を使用)に決まった。来年も是非、また多くの方々にご参加頂きたい。 |
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