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目指せ、ギターの甲子園。

REPORT

第25回全日本アマチュアギターコンクール 開催レポート

2024年8月24日(土)、第25回全日本アマチュアギターコンクールが例年通り三鷹市芸術文化センター・風のホールで催されました。
レポート:審査員 坪川真理子 主催:全日本ギター協会

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今年の応募者総数は78名。今年から第1次予選(禁じられた遊び)がなくなり、1回の録音予選で50名が合格となった。そのうち1名のキャンセルがあり、ステージ予選で49名から10名を選出。審査員は7名で、全日本ギター協会より名誉会長 志田英利子、会長 宇高靖人(やすひと)、委員 石田忠、伊藤亘希、坪川真理子、中島晴美、ゲスト猪居亜美。


<録音予選> 課題曲:タンゴOp.19-3(フェレール)/現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」指定、リピート省略、D.S.あり。

 6月初旬の録音審査は、審査員5名で行われた。5点満点×5人の合計点で、15点以上の50人が合格となった。つまり、オール3点の人は合格したということになる。今回は、ちょうどボーダーラインの15点の人が7人もいた。
フェレールのタンゴは過去にも課題曲になったが、リズムが苦手な人には難しい曲だ。他にもスラーや装飾など、あちこちに落とし穴があるので審査はしやすい。3連符と付点の弾き分けや、スラーや装飾音が入ってもリズムが崩れないこともポイントとなった。
 音ミス(読譜ミス)やリズムミスは1点減点と決まっているので、確認し合い、時には聴き直しながら採点。ベース音のミス、小節10の複音を和音にしている、小節15の和音間違いなどが散見された。また、テンポ感が不安定で減点になった人もいた。今回はD.C.ありの指定だったが、D.C.なしで終わって失格になってしまった人がいたのは非常に残念だった。
 今年から初めてデジタル音源の応募となり、再生不可能な媒体がなかったのは良かった。音量が小さ過ぎる録音がいくつかあったので、録音した器材とは別の物で聴いてから応募されることをお勧めしたい。

<ステージ予選> 課題曲:月光Op.35-22(ソル)/現代ギター社版「発表用ギター名曲集」指定
ステージ予選は、緊張が伝わりやすい右手のコントロールが勝負を分けたと思う。また度忘れが多く、メンタルの重要さを再認識させられた。指定版の解説に「メロディーはアポヤンドで弾く」と断定的に書かれていたせいか、メロディーをアポヤンドで弾く人が多く、伴奏とのバランスが取れていた人は少なかった。私たち審査員も、この注意書きを守る必要はない旨をHPに載せるなど、周知をはかるべきだったと思う。アポヤンド=NGということではないが、アルアイレの方がコントロールしやすかったことだろう。メロディーにばかり気を取られて中音をおろそかにしている人も多かったが、各声部の横の動きや、和声的な響きもメロディーと同じくらい大事な曲だ。音質はもちろん、ダイナミックレンジの広さもポイントになったと思う。
音ミスは少なかったが、小節40の最後の音がA弦ではなくB弦になっていた人が数名いた。
採点は5点満点で審査員7名分の合計を出し、今回は28点以上の10名が合格となった。27点だったのは、山口直哉と山下知子。26点が久保田拓、首藤智生、野中久仁子の3人だった(以上50音順)。

<本選>  自由曲5分以上8分以内、曲数任意(時間不足や超過は減点。)

 本選出場者発表前に昨年度優勝者の古田英生がゲスト演奏し、インタビューなども行われた。以下、10名のレポートを演奏順に記す。「 」には他の審査員のコメントをまとめた。

阿部匡伸(まさのぶ)(神奈川):「ソナタ第2番」より プレリュード(ヴァイス)、フリア・フロリダ(バリオス)
 22年ファイナリスト。冒頭で度忘れがあったが、誠実な演奏。バリオスは少し弾き急いでいるように聴こえた。また調弦が甘かったのも、時間制限を気にしていたのだろうか。各声部のバランスは良い。ダイナミクスを広げることと、上半身の力みが取れれば良くなると思う。「左手で弦を引っ張って音程に影響している」「基本はしっかりしている」
 
飯田善次(栃木):「3つのスペイン風小品」より ファンダンゴ、サパテアード(ロドリーゴ)
 緊張のためか暴走気味。かなりの速さだったがスケールはほぼ弾けていて、テクニックはある。度忘れがあったのと、ミスが多かったのが残念。ファンダンゴはそれほど速い舞曲ではないし、どちらもテンポを保ってアクセントをしっかり付けるとスペインらしさが出てくるだろう。「ビリつきが多い」「楽器をしっかり鳴らすタッチ」

田口昌義(東京):魔笛の主題による変奏曲(ソル)
 予選一位通過。22年ファイナリスト。序奏はテンポが少し不安定だった。時々とても良い音を出すのが印象的。弾き直しがあったのが惜しい。細かい傷は多いが、全体的な流れは良かった。「手慣れていてベテランの感じ」「2拍子感、軽さが足りない」「音圧やパワーがある」

大森拓美(東京):フーガBWV1001(バッハ)
 綺麗な音。冒頭で弾き直しがあったが、丁寧な演奏。フレージングをもう少しはっきりさせられると更に良いと思う。度忘れもあったが、全ての声部を意識できている印象だった。「安定感がある」「もう少しダイナミクスが欲しい」「音色が美しかった」<特別賞>
 
星野隆資(神奈川):「南米組曲」より 前奏曲、タキラリ、グアラニア(アジャーラ)
 前奏曲はもう少し自由度がほしいが、なめらかな演奏。ダイナミクスや音質の変化が付けられると良くなるだろう。特にグアラニアは雰囲気をよく出せていたと思う。「安定している」「もう少しアクセントに工夫がほしい」「よく歌っている」

石井範昭(東京):プレリュード(坂本龍一)
 太く綺麗な音。時々音の繋がりが悪いところがあるが、和音の響きを聴けている印象。音量はあるものの音楽の方向性が見えにくいので、もっと弱い方にダイナミクスを広げられると更に良いと思う。「もう少し分かりやすい表現が欲しい(モチーフなどを分かりやすく提示する)」「音色に変化を付けたい」「安定感がある」<第3位>

渕辺章太郎(東京):カヴァティーナ(マイヤース)、ワルツ第4番(バリオス)
 音が細めで、爪の先で弾いている印象だが、素直な演奏。一瞬の度忘れ(1小節飛ばし)があったのが惜しい。バリオスは細部の音が不明瞭なので、ゆっくり部分練習すると良いだろう。リズムは良かったと思う。後半の和音に音ミスがあったようなので、確認されたい。「もう少し音に厚みが欲しい」「アルペジオの流れが良い」

田中章雅(東京):黄金のポリフェーモ(ブリンドル)
 23年ファイナリスト。太い音で、ダイナミックレンジが広い。チューニングが少し甘いのが気になった。この緊張の場でも、うまく脱力してとても楽に弾いている印象。音色も多彩で、音の響きを楽しんでいるように見えた。「音色の作り方が良い」「テクニックに安定感がある」「手の内に入った演奏」<第1位>

内藤惇(あつし)(奈良):「カヴァティーナ組曲」より プレリュード、サラバンド(タンスマン)
 低音もよく通る美音。プレリュードは上半身に力が入り気味で、メロディーの音が時々はっきりしないのが惜しい。サラバンドは声部のバランスが取れていてとても美しかった。「表現豊か」「より繊細に正確にコントロールできれば優勝しただろう」「ppp(ピアニッシシモ)が美しく絶妙」「立体感がある演奏」<第2位>

池田光治(こうじ)(東京):舞踏礼讃(ブローウェル)
 予選二位通過。現代曲ほど楽譜に忠実に弾く必要があるが、2拍3連などのリズムや和音の数に少し不正確なところがあったので、よく確認されたい。音色などはよく表現できていて、曲の雰囲気は出せていた。「細かいパッセージが不完全なのが惜しい」「曲の解釈はよくできている」<次席>



<総評>
 本選の採点は6点満点で、1位?6位にそれぞれ6?1点を付けて合計する方法。7位以下は0点。)
審査員7人中4人が田中さん、3人が内藤さんに1位を付けて、何と合計点1点差の接戦だった。例年票がかなり割れるのだが、田中さんと内藤さんに審査員全員の1位と2位が集まったのは、それだけ2人の実力が飛び抜けていたということだろう。
 ひとつには、第1回から審査されていたピアニストの堀江委員に代わり伊藤亘希委員が入ったため、審査員が全員ギタリストになったことも関係しているかもしれない。(ギター以外の人が入ると視点が変わるので、それはそれで面白いのだが。)
 田中さんは初入賞が優勝となった。内藤さんはコンクール初挑戦だったそうで、これからが楽しみだ。

 特別賞は順位とは関係なく選んでいるが、今回は得票的にも5位で、弾き直しや度忘れさえなければ入賞したと思われる大森さんで意見が一致した。

 今年のファイナリストはほとんどが本選初出場で、顔ぶれがガラリと変わった。年齢は20代1人、30代1人、50代1人、60代4人、70代3人と平均が高め。奈良の内藤さん以外は全員関東の出場者というのも珍しい。。

 この夏はパリオリンピックを観戦された方も多かったと思うが、やはり最後はメンタルが大きく左右するのは音楽の世界も同じだ。ステージ予選も度忘れが例年以上に多かったし、本選も度忘れのない人の方が少なかった。特に本選は、合格者発表から出番までの時間が少ない分、毎年順番が早い人ほど緊張されるようだ。とにかく、ステージに上がったらもう開き直るしかない。そして、心の安定のためには度忘れしにくい暗譜の仕方(指だけで覚えないこと)が大切だと思う。「ゆっくり弾くと分からなくなる」とか「途中から始められない」というのはきちんと暗譜できていない証拠なので、一旦覚えても繰り返し楽譜を確認する作業が必要になる。また、ステージ慣れしている人はごまかしが上手い。ごまかしと言うと語弊があるかもしれないが、何とかして乗り切るのは何より大切な技と言えるかもしれない。ミスをしても平然とスルーできればそれほど気にならないが、弾き直しをすると大きなミスとなってしまうのだ。場数を踏む、というのもコンクール対策としてはとても有効になると思う。
 今回は会長以下、委員・スタッフが大きく入れ替わって初めての体制での25周年となった。申し込みがデジタルになり数件問い合わせがあったが、おかげさまで無事に終えることができた。細かい反省は多々あるので、また次回に向けて見直していきたい。

 来年は、録音予選が「ギャロップOp.32-6(ソル)」リピートなし、D.C.あり(現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」を使用)、ステージ予選は「アデリータ」(タレガ)リピートなし(ギタルラ社版「新ギター教本」を使用)。是非また多くの方々にご参加頂きたい。

バナースペース

全日本ギター協会

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